Apple Watchにしろ、今後登場してくるであろう視覚を伴うより高度なウェアラブル製品にしろ、これらをiPodのように変革していくのか、それとも引き続きiPhoneユーザーをターゲットにし、最大限に存在感を発揮してもiPhoneの価値を高めるに留めるか、という判断が生じてくる。

iPodは当初、Mac向けのデジタルミュージックプレーヤーとして登場した。Macをデジタルハブとして、生活の中のさまざまな製品や体験を連携させる構想を体現する1つの切り口となり、iMacシリーズ、iBookシリーズの人気もあって、瀕死だったAppleを再び輝かせるきっかけをもたらした。

  • 2001年に初代モデルが登場したiPod。当初の方針を転換し、Windowsに対応させたことで大ヒットとなった

iPodは、Macのアクセサリーという枠を超え、CD中心だった音楽産業をダウンロード中心へとひっくり返す原動力ともなった。その大きな理由は、AppleがiPodをWindowsにも対応させたことだった。Microsoft Windowsが爆発的に普及するなかで、iPodの可能性を拡げることを考えれば、Macにとらわれなかった点は大成功した要因といえる。

さて、いま、Apple Watchにそれが当てはまるだろうか?

Apple Watchをセットアップするためには、iPhoneのiOSに備わるWatchアプリを利用しなければならない。つまり、Androidスマートフォンではセットアップすらできない、というのが現状だ。

これは、iPodの登場当時、MacにしかiTunesが用意されておらず、WindowsとiPodが連携できなかった状態と似ている。世界最大のPCプラットホームで、世界で最も人気のあるデジタルミュージックプレーヤーのiPodが利用できなかったことと同じように、世界最大のスマートフォンプラットホームのAndroidで、世界で最も人気のあるスマートウォッチのApple Watchが利用できないのだ。

もし、Apple WatchをiPodのようにしたいのであれば、Android向けのWatchアプリをリリースすればよいのかもしれないが、問題はそれほど単純ではない。まず、Androidユーザーは、Googleのサービスよりも性能が劣っている音声アシスタントSiriやAppleマップなどをわざわざ使いたいと思うだろうか?

また、Apple MusicやHealthKit、Apple Payなど、Appleのプラットホームを前提に設計されている各種サービスをすべてAndroid向けにコンバートする必要も出てくる。Apple MusicこそAndroid版が存在しているが、より高度なセキュリティにかかわる他のサービスを、Appleはそう簡単にAndroidには対応させないだろう。

これらのことから、Apple Watchは過去のiPodのようにはならず、引き続きiPhoneのお供として成長を目指すことになるはずだ。

長く愛されるウェアラブルとして成長するには

Apple Watchはアルミニウム3色、ステンレススチール2色、セラミック2色の素材と色があり、それぞれ38mmと42mmの2サイズがある。さらに、最も価格の安い廉価版のSeries 1、GPS搭載のSeries 3、セルラー搭載のSeries 3という非常に多くのバリエーションが存在する。

これに、Appleからはシリコン、ナイロン、ステンレススチール、レザー、スポーツといったバンドがリリースされ、なかにはNikeやHermesとのコラボレーションモデルも含まれる。バンドはサードパーティーからも用意されており、自由に着せ替えて楽しめる。

1種類のデザイン、2つのサイズ、カラーは数色という多くのApple製品における選択肢と比べれば、Apple Watchは素材の違いなども多く用意している。しかし、基本的な1つのデザインは共通であり、時計をより工業製品的にとらえている点で、既存の時計の楽しみを再現できてはいない。

もっとも、スイスの時計メーカー各社よりもApple Watchの売上高が上回っているため、それが現在の市場に対して間違っているわけではない。しかし、時計業界が100年単位で進化とトレンドを作り続けてきたことを考えると、定番や伝統と、飽きられてしまう意匠や技術の間には溝があり、Apple Watchがそこを渡れたとは考えにくい。

同じことがAirPodsにもいえるだろう。こちらは、単一の機能とデザインで完全ワイヤレスイヤフォンの分野でトップとなった。しかし、こちらもウェアラブル性を追求すること、つまりデザインや機能性にバリエーションを持たせることを本気でやっていくのだろうか。あるいは、身につける人間にApple流を強いていくのだろうか。

AppleのウェアラブルビジネスがiPhone次第である以上、iPhoneユーザーの身なりをいかに洗練させるかはApple次第といえよう。それが期待できなければ、ウェアラブルビジネスの成長は止まってしまうだろう。