東京大学(東大)は、2種類の結晶と液体の3相が共存する1成分液体の3重点や、2成分系の共融点近傍では、ガラスが形成されやすいという現象の物理的な起源を明らかにすることに成功したと発表した。

同成果は、東京大学生産技術研究所の田中肇 教授、ジョン・ルッソ元特任助教(現ブリストル大学講師)、ベニス大学のロマーノ・フラビオ准教授の研究グループによるもの。詳細は、「Physical Review X」に掲載された。

  • 正四面体構造の度合いと、液体の中の結晶前駆体を示した図

    正四面体構造の度合いと液体の中の結晶前駆体を示した図。融点(青い点線)が最小となった三重点付近で、結晶的な方位秩序の度合いも最小となり、液体の構造が最も乱れるため、ガラス形成を助ける (出所:東大Webサイト)

これまで2種類の結晶と液体の3相が共存する、1成分液体の三重点や2成分系の共融点近傍ではガラスが形成されやすいことが経験則として知られていた。しかし、どうして三重点や共融点近傍でガラスが形成されやすいのかは長年の謎であった。

研究グループは今回、理論・数値シミュレーションによりその謎に迫った。その結果、液体の構造は乱雑で一様だとされてきたこれまでの考え方と異なり、液体を融点以下に冷却していくと、温度の低下とともに、液体中に方位秩序が発達してくる傾向があることが明らかとなった。このことは、液体の構造と結晶の構造が似ていると結晶化しやすい一方で、大きく異なると結晶化が阻害されガラスが形成されやすいという、自然な原理の存在を意味するのだという。

また、三重点や共融点付近では、液体中に2種類の対称性の異なる方位秩序が発達しようとするが、それらは互いに相いれず競合するため、液体の構造は十分秩序化することができない。その結果、液体と結晶の構造の差が最大化され、液体と結晶の界面エネルギーが最大になり、結晶の核の形成に伴う、新たな界面を作り出すのに必要なエネルギーコストも大きくなり、結晶化が起きにくくなる。このことが、三重点や共融点近傍でみられる高いガラス形成能のメカニズムであることが明らかになった。

なお、研究グループは同成果について、結晶化とガラス化の間に深い関係があることを示したばかりでなく、さまざまな物質のガラス形成能の意図的な制御に新しい道を拓くものだと説明としている。