組込市場のターゲットはCPU+GPUが活かせる分野

ーーでは話を組み込みに移したいと思います。まず最初に確認したいのですが、どの組み込み市場をターゲットとされているのでしょう?

確かに組み込み分野にはたくさんのアプリケーションがある。その中でAMDがターゲットとするのは、自分たちのCPUとGPUが生かせるマーケット、つまりAPUやSoCの形で提供ができる分野だ。ソニーのPS4はその代表例だが、我々はシンクライアントでNo.1のポジションにある。あとはラスベガスのようなカジノでのマシン、日本だとパチンコやパチスロになるが、ここも強い。それから医用画像、ここではCPUとGPUの演算能力が評価されている。あとプリンティング(MFP)も好調だ。イメージを探ってプロセッシングニーズにGPUが高く評価されている。

林田氏:歴史的にはMFPにはASICが使われてきましたが、現状、ASICはどうしても高価になります。そうした事情もあって、MFPメーカーはASICからCPU/GPUベースにアーキテクチャをシフトさせつつあります。現時点ではまだR&Dの状態で、将来の製品に採用予定という状況ですが、期待は持てます。こうした市場に対してのアドバンテージとしては、2月に「Ryzen Embedded V1000」を発表したことです。これはZenコアのCPUにVegaベースのGPUを搭載したものであり、非常に興味を持っていただいております。特にRyzen Embedded V1000に搭載されているVegaコアは、医用画像のほか、さまざまなHMI向けや、カメラで撮影した映像の画像認識などにも使えるため、有力なソリューションになると考えています。これは日本でも同じで、やはり医用画像機器のベンダやプリンタベンダに興味を持っていただいております。また日本の場合、産業機器ベンダは世界でも高いシェアを有していることから、結果としてグローバルでのシェア獲得にもつながると考えています。

ーーなるほど、Ryzen Embedded V1000については理解できましたが、EPYC Embedded 3000はどうなのでしょう?

そちらはさまざまなサーバ、エントリーサーバ以外にもIoTやコミュニケーション、ストレージなどの分野に最適な製品という位置づけとなっている。

ーーこの場合のサーバというのはゲートウェイですか? それともエッジサーバのような分野ですか?

エッジサーバだ

林田氏:この図(Photo02)を見ていただくと判りやすいと思います。この図がAMDがターゲットとする組み込み分野で、中央のネットワークやストレージをEPYC Embeded 3000で、よりエッジに近いところをRyzen Embedded V1000で担おうと考えています。

  • :AMDがターゲットとする組み込み分野

    Photo02:AMDがターゲットとする組み込み分野 (Ryzen Embedded V1000とEPYC Embedded 1000の発表の際に示されたスライドより抜粋)

ーーこの図に記載されている「Consumer&Commercial Client」ですが、これはPOSやKiosk端末を指すと思いますが、昔はx86+Windows NTという構成が大半でしたが、昨今では、AndroidやiOSのタブレットに置き換わるところも出てきています。こうした分野も狙っていくと?

まず、Ryzen Emddededは、下はDual Core CPUと小さなGPUコアで、10Wのレンジを、上は54Wのハイエンド製品までラインアップしている。つまり、10W~54Wの範囲のアプリケーションに対しては、良いソリューションを提供できることを意味する。顧客はアプリケーションを1つ書けば、タブレットベースのPOSからマルチスクリーンのハイエンドPOSまで、そのアプリケーションを利用できるようになる。このスケーラビリティが強みだ。

ーーそこについてはもう1つ質問です。10年ほど前まではWindowsベースの組み込みシステムを構築できるソフトウェアエンジニアが沢山いました。しかし、現状ではAndroidやiOS、あるいはWebアプリが普及しており、こうした状況はRyzen EmbeddedやEPYC Embeddedに逆風になるのではないでしょうか?

林田氏:それはその通りです。ローエンド・ローコストのプラットフォームはすでにArmになりました。ただ幸いにエッジゲートウェイやIoTゲートウェイなどに関しては、引き続きx86が強い状況です。あとPOSについていえば、POSターミナルは大抵サーバにつながっています。例えばスーパーマーケットでは、セールスカウンターにサーバが置かれていたりします。(こうしたものを開発している)顧客は、サーバとターミナルに別々のOSを使いつつも、同一のCPUを使いたいと希望しています。そうなると両方x86でカバーする形になるわけです。我々は低価格のプラットフォームはターゲットにしていません。

ーー例えば近年、組み込みに高い関心を示すQualcommのハイエンドSoCと、ローエンドのx86はほぼ同等性能になってきましたが、競合としてみるとどうでしょう

ボトムでは、Armとx86がオーバーラップしているのは事実だが、x86のカバー範囲はその上、ということでもある。Armとの違いはパフォーマンスの絶対値、それとスケーラビリティにあると言える。

ーー次の10年もx86はArmに対してパフォーマンスのアドバンテージを継続できると思いますか?

非常に大きな(Significant)パフォーマンスのアドバンテージがあると思う。理由は、まず設計の際の最適化の方向がパフォーマンス向けになっていることだ。Armは基本的に省電力や性能効率の改善に向かっている。これは特にローエンドのマーケットでは重要だ。性能も重視してはいるが、バッテリー寿命を延ばすという縛りがあるからだ。一方AMDは、非常に高い性能を現実的な消費電力で実現することに最適化している。結果、基本的なデザイン手法やプロセス技術、キャッシュなどすべてがパフォーマンスを引き出す方向に振られている。

ということで、エコシステムとパフォーマンスの両面から、x86は引き続きパフォーマンスの分野ではArmに対して大きなアドバンテージを持ち続けると思う。

パフォーマンスが高ければ、エンドユーザーは例えばラックを埋めるサーバの数を減らすことが出来るし、これはTCOの削減にも貢献する。実のところ、これが日本でAMDが選ばれる理由と我々は考えているポイントの1つだ。

組込市場攻略の切り札 - ダイレクトサポート

ーーただ組み込み分野は良い製品であるだけでは不十分で、良いサポートも必要です。過去のAMDでは、そうしたサポートが不十分な印象がありましたが、現在はどうなのでしょう

私は、5年前にAMDに入社して以降、組込事業の立て直しを行ってきた。その中で製品ラインの立て直しに投資するとともに、フィールドサポートの人員の拡充も図ってきた。その結果、現在、組み込み専任のセールスも抱えられるようになったし、50名以上のFAE(Field Application Engineer)が全世界の顧客を設計を緊密にサポートする体制となった。

確かに組み込み分野はPCやサーバのビジネスとはまったく異なる方法が必要であり、我々としても顧客とコラボレーションしつつ設計の最適化を図ることの重要性を理解している。現在の我々には、かつて無いほど強力なFAEの部隊が存在し、すべての地域、すべての国で顧客と緊密に作業をこなすことが可能となった。特にゲーム、シンクライアント、IoTエッジの分野でこれは顕著に現れ始めている。

林田氏:ちょっと補足をしますと、日本ではODMベンダのモジュールを使うケースは多いのですが、そうしたODMベンダと緊密な協力関係を構築していますし、加えて、顧客に対しての(米国からの)ダイレクトサポートも提供しています。これは競合メーカーも行っていないサポートで、非常に大きなインパクトがあると考えています。私のチームは通常ODMベンダを訪ねることは無く、顧客に訪問し、そこから顧客はどのODMベンダを使うか、自身で選択を行っていただいています。というのも当然価格や機能などはベンダごとに異なるものが提供されるからですが、ただサポートに関してはAMDからのものが必要とされます。競合ベンダの場合、サポートはODMベンダ経由のことが普通で、直接のサポートは提供されません。これが我々が、サポートを提供する理由です。

このダイレクトサポートの方針は、5年前に私が組込事業に携わったときに打ち出したものだ。このモデルを私は米国やヨーロッパ、台湾、韓国、その他のメジャーな国すべてに適用している。それぞれの国でそれぞれの国の言語によるダイレクトサポートを提供する形だ。

ーーちなみに日本には何人くらいのFAEの方が配置されているのでしょう?

「必要十分な数」だ(笑)。我々は良いチームを形成していると思う。常に次のビジネスを考えて、募集も行っているがね。

林田氏:確かに昔のAMDは組み込みにそれほどアクティブというわけではありませんでした。ただ(Longoria氏の就任以来)我々はビジネスの方針を転換し、現在は組み込みにコミットメントしています。

我々は7年~10年の製品提供をコミットメントしているプロセッサベンダでもある分けだ。

ーー私の理解では、こうした方針の転換はこれまで公式に語られてこなかったと思うのですが?

基本的にこの話そのものは公式なものだが、問題は規模だ。我々のリソースにもやはり限りはある。例えば10ユニットしか製造されないものと1000万ユニット製造されるものでも、実はデザインウィンから製造開始までのサポートのコストは大きくは変わらない。そうなると、現実的な話として、すべてをカバーするのは不可能になる。そうしたことを踏まえて、ダイレクトサポートは小ロット向けの製品ではなく、大ロット向け製品に限ってのサポートにならざるを得ない。小ロットに関しては、従来通り我々の主要なディストリビューションパートナーからのサポートという形がメインになる。

最近は組込機器の開発が加速しているので、デザインウインから収益の発生まで2年くらいに短縮されるケースも出てきており、そこからの売り上げが7年以上続くこともある。この動きにあわせてAMDはLong Time Supportや長期供給保証をコミットしているわけだ。