産業技術総合研究所(産総研)は、同研究所の研究グループらが、現在B型肝炎治療に広く用いられている核酸アナログ製剤エンテカビルの作用機構と、薬剤耐性が生じる仕組みを明らかにしたことを発表した。

この成果は、産総研 生物プロセス研究部門 応用分子微生物学研究グループの安武義晃氏、国立国際医療研究センター(以下、NCGM)研究所の満屋裕明氏、同研究所 難治性ウイルス感染症研究部 レトロウイルス感染症研究室の前田賢次氏らによるもので、1月26日、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

  • 改変HIV逆転写酵素の作製とエンテカビルと結合した状態の立体構造(出所:産総研Webサイト)

    改変HIV逆転写酵素の作製とエンテカビルと結合した状態の立体構造(出所:産総研Webサイト)

核酸アナログ製剤のB型肝炎治療薬は、B型肝炎ウイルス(HBV)が持つ逆転写酵素に結合し、その働きをブロックすることでウイルスの増殖を直接的に抑制できる。ところが近年、既存の核酸アナログ製剤に対する薬剤耐性が報告され、薬剤耐性HBVを克服するための新しい治療薬の開発が求められている。

新薬の開発には、既存の薬剤の作用機構を深く理解する必要があり、そのためには薬剤が結合した状態の逆転写酵素の立体構造の情報が不可欠であるが、HBV逆転写酵素は非常に不安定なタンパク質で、構造研究は進んでいなかった。

そこで研究グループは、ヒト免疫不全ウイルス(エイズウイルス:HIV)の逆転写酵素を、HBV逆転写酵素に似るように改変しmエンテカビルが結合できる、いわばHBV型のHIV逆転写酵素を作製した。この改変HIV逆転写酵素にエンテカビルが結合した状態と、DNAの材料であるデオキシグアノシンが結合した状態の立体構造を高分解能で解析した。

  • 改変HIV逆転写酵素設計の概要(出所:産総研Webサイト)

    改変HIV逆転写酵素設計の概要(出所:産総研Webサイト)

両者の構造を詳細に比較したところ、逆転写酵素にエンテカビルが結合する仕組みや逆転写酵素がエンテカビルの結合から逃れて薬剤耐性に変わる仕組みが明らかになった。

今回得られたエンテカビルが作用した状態の改変HIV逆転写酵素の立体構造情報を利用することにより、逆転写酵素の活性部位によりフィットするような核酸アナログ構造を検討することが可能となり、HBVやエンテカビル耐性HBVに対する新しい治療薬の開発が期待される。

研究グループは今後、さらにHBV逆転写酵素に近づけた改変HIV逆転写酵素などを作製し、その薬剤感受性の解析や他の核酸アナログ製剤の結合機構の解析を通して、新たなHBV治療薬開発に資する立体構造解析を継続して行っていくとしている。

  • エンテカビルが結合した改変HIV逆転写酵素の構造(出所:産総研Webサイト)

    エンテカビルが結合した改変HIV逆転写酵素の構造(出所:産総研Webサイト)