富士通コンポーネント 事業本部ヒューマンインターフェースデバイス統括部・佐藤博紀課長は、ターゲットとする押下特性(どのくらいの力で入力するか)を実現するために「滑らかな荷重変化と、大きなストローク感を持たせること、さらにユーザーが押したと感じる領域のなかにオン位置を置き、押し込まなくても入力ができ、文字抜けしないことを目指した」という。

  • 富士通コンポーネント 事業本部ヒューマンインターフェースデバイス統括部・佐藤博紀課長

富士通コンポーネントがデスクトップPC向けに製品化しているLibertouchシリーズでは、ラバー特性とコイルスプリングの特性を組み合わせることで、高い品質の押下感を実現したとする。

「ラバーでキー感触を演出し、コイルスプリングで検出するという2種類の部品の組み合わせによって、操作感を高めているのがLibertouchシリーズの特徴。これをどうやって、ノートPCで実現させるかといった点で試行錯誤を繰り返した」と佐藤課長は振り返る。

「ラバー+コイルスプリング」の組み合わせのほかに、ギアリンクの根元部で板バネの端を押し下げる「ラバー+板バネ」という方法もあるが、いずれにも共通した課題は、ノートPCのキーボード部の薄さを考えると、コイルスプリングや板バネを、ラバーとともに組み込むことは困難であるということだった。

新形状ラバーでクリックとオン位置を両立

実際、従来のノートPCのキーボード構造は、ラバーをたわませて、押し子と呼ぶ突起部分が、メンブレンシートの接点に当たって入力できるというものだ。だが、これでは、オン位置を優先するとクリックが減少し、クリックを優先するとオン位置が後退し、適切な入力ができないというように、オン位置とクリックを両立する形することができなかったのだ。

LIFEBOOK UH/B1での文字抜けも、どちらかに寄った形でチューニングせざるをえないがゆえの課題だったといえる。

そこで、試行錯誤の末にたどり着いたのが、クリックとオン位置を同時に優先することができる新形状のラバーの採用であった。

新たなラバーは、オン位置を優先するための「内ドーム」と、キーの感触を演出するクリック優先の「外ドーム」を組み合わせた複雑な形状を採用。コイルスプリングや板バネを使用することなく、ラバー単体で、クリックとON位置を両立して優先する形状を実現したのだ。

  • 新開発のラバーの仕組み

ラバーにかける情熱、製造ベンダーも理解

だが、ここからも試行錯誤は続いた。「ラバー単体では実現可能であることはわかったものの、外ドームと内ドームのバランスが難しく、ターゲットとした押下カーブと、試作したラバーによる押下カーブには差が生まれていたため、カットアンドトライによる調整を繰り返した。また、耐久試験を行うと、ラバーが途中で破損してしまうといったことが発生し、打鍵寿命の点でも課題が残った」(富士通コンポーネントの佐藤課長)という。

キーを押した際に、ラバーが圧縮され、この時に外ドームが擦れて、ラバーが破損することがわかったという。ここではラバーの細かい肉厚調整が行われ、解決につなげることができたという。

ラバーの生産は、中国のベンダーを活用しているが、「まずは、なぜ富士通クライアントコンピューティングと、富士通コンポーネントがここまでこだわったラバーを量産したいと考えているのかを徹底的に理解させ、同じ情熱を持って生産してもらう環境を作った。その上で、ラバーのメーカーとは、深夜、休日を問わずに電話会議を行い、試作品を作っては、そのデータを測定し、改良を加えていった」(富士通コンポーネントの佐藤課長)。富士通クライアントコンピューティングと、富士通コンポーネントの情熱がラバーメーカーに伝わると、今度は、ラバーメーカー側からも、アイデアが出てきたという。