理化学研究所(理研)は1月15日、原子レベルで制御可能な酸化物界面において、磁化とnmサイズの渦状の磁気スピンの配列(スキルミオン)に由来する輸送特性を電界で制御することに成功したと発表した。

同成果は、理研 創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関界面研究グループの大内祐貴 研修生(東京大学大学院 博士課程)、松野丈夫 専任研究員、小塚裕介 客員研究員(東京大学大学院 講師)、打田正輝 客員研究員(東京大学大学院 助教)、川﨑雅司グループディレクター(東京大学大学院 教授)、統合物性科学研究プログラム 創発光物性研究ユニットの小川 直毅ユニットリーダー、十倉好紀グループディレクター(東京大学大学院 教授)らの研究グループによるもの。詳細は、英国科学雑誌「Nature Communications」(オンライン版)に掲載された。

10~20年後には集積回路上のトランジスタは原子のサイズになり、半導体エレクトロニクスが技術的な限界を迎えることが予想されている。これに代わり、電子スピンの情報を利用したスピントロニクスを用いた新しいデバイスの開発が進んでいる。

それには、スピンと電子の運動を結びつける「スピン-軌道相互作用」が重要な因子となる。なかでも「異常ホール効果」と「トポロジカルホール効果」がスピン-軌道相互作用に由来する磁気輸送現象として研究されている。しかし、これらの効果を高密度スピントロニクスデバイスに展開するには磁界や電流注入ではなく、"電界で制御する"ことが必要になる一方で、電界が遮蔽される金属強磁性体においてはそれが困難であるという問題があった。

研究グループは今回、強磁性体SrRuO3による異常ホール効果に加えて、非磁性体SrIrO3の強いスピン-軌道相互作用から生成されるスキルミオンに由来するトポロジカルホール効果も示す界面構造を、SrTiO3基板上に作製した。

  • スピントロニクス

    作製した界面構造の模式図。中央は界面構造を、左はペロブスカイト構造で保たれた結晶構造を、右は界面の効果により生じたスキミルオンを表している (出所:理化学研究所Webサイト)

すると、上からSrRuO3/SrIrO3/SrTiO3の順で積層したときに、異常ホール効果とトポロジカルホール効果の両方で電界効果が観測された。SrTiO3基板はゲート絶縁体を兼ねるため、今回の観測は「強磁性体とゲート絶縁体との間に強いスピン-軌道相互作用を持つ物質を挿入することで、強い電界効果を実現できる」ことを意味するものとなる。

同成果に関して研究グループは、「今後、磁化やスキルミオンを『磁気メモリ』として使う際の設計指針となることが期待できる」と説明しているほか、「スピン-軌道相互作用に由来する現象はホール効果以外にも数多く存在するため、それらを電界で制御しデバイスへ応用する際にも有用な成果といえる」などとコメントしている。