理化学研究所(理研)は、大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行うことで、新しいぜんそく関連遺伝子と、ぜんそくと自己免疫疾患や炎症性疾患との関係、そして感染などへの免疫応答の関与などの手がかりを発見したと発表した。

  • 国際多集団142,486人によるGWASメタ解析の結果

    国際多集団142,486人によるGWASメタ解析の結果。既知のぜんそく9遺伝子座は黒で、ヨーロッパ系祖先メタ解析で見いだされた新しい7遺伝子座は赤で、多集団祖先メタ解析でさらに見いだされた新しい2遺伝子座は青で示されている。

同研究は、理研統合生命医科学研究センター医科学数理研究グループの角田達彦グループディレクター、統計解析研究チームの高橋篤客員主管研究員、統合生命医科学研究センター久保充明副センター長らの共同研究チームによるもので、同研究成果は、12月22日付けで国際科学雑誌「Nature Genetics」オンライン版に掲載された。

ぜんそくの患者は世界中で10億人にのぼり、罹患率は日本人で5~8%、米国では3.9%~12.5%と人種によってさまざまとなっている。また、遺伝的要因によるリスク寄与率は25~80%と推定されている。このように罹患率や寄与率に大きな幅がある理由には、ぜんそくの発症が環境の違いに左右されやすいことなどが挙げられるという。しかし、これまでの研究から、ぜんそくとの関連が認められた遺伝子領域(遺伝子座)はわずか21で、これらは遺伝的リスクの一部しか説明できていなかった。

そこで、新しい遺伝子座を発見するため、世界中の研究者で構成される「国際共同研究トランスナショナルぜんそく遺伝学コンソーシアム」が設立され、同研究チームはそれに参加し、最大級の規模となる世界中の多集団でゲノムワイド関連解析(GWAS)を行った。GWASは、病気を発症している集団と発症していない集団との間で、遺伝子多型(個人差)の頻度に差があるかどうかを統計的に調べる手法である。今回、さまざまな集団を代表する142,000人以上の検体を解析することによって、人種や環境の違いに左右されにくい、ぜんそくのリスクとなる18遺伝子座と878の一塩基多型(SNP)の包括的なカタログが構築され、リスクとなる新しい5遺伝子座(5q31.3、6p22.1、6q15、12q13.3、17q21.33)と、ぜんそくと花粉症の併発症の遺伝子座内で新しいぜんそく関連SNPを発見した。

また、ぜんそくと関連を持つ9遺伝子座(5q31.3、6p22.1、6q15、12q13.3、17q21.33、6p21.33、10p14、8q21.13、16p13.13)が、アレルギー関連表現型に関わる遺伝子座、肺機能表現型に関わる遺伝子座、また他の免疫関連疾患について報告されてきた遺伝子座と重複しているかどうかを、公共データベースにあるGWASのカタログを用いて調べた結果、6遺伝子座はアレルギー関連遺伝子座と、8遺伝子座は自己免疫疾患関連遺伝子座や感染症関連遺伝子座などと、3遺伝子座は肺機能関連遺伝子座と重なった。さらに、公共データを用いて、さまざまなヒト細胞種でのエピゲノムを調べたところ、同研究で認められたぜんそく関連遺伝子座は、免疫細胞のエンハンサーの近くに多くあり、免疫関連機能の調節に関与している可能性が高いことが分かった。さらにエピジェネティックなメカニズムがぜんそくを促進する鍵となりうることも分かり、エピゲノム研究の重要性も示されたという。

今後は、これらを手がかりにぜんそく発症の詳しいメカニズムの解明や、メカニズムに関連した分子ターゲットを発見することで、ぜんそくに効果的な薬の創薬につながると期待できる。また、発見されたSNP群は、ぜんそくの発症リスクを予測する疾患遺伝子マーカーとしての活用が可能になるとのことだ。