ThinkPadが2017年の10月5日で25周年を迎えた。今回はそれを記念して日本IBM時代からThinkPad開発に携わり、「ThinkPadの父」とも呼ばれる内藤在正氏(現レノボ・ジャパン取締役副社長研究開発担当。以下敬称略)のインタビューをお届けする。

無線技術や入力デバイスといったさまざまな技術的観点から、これまでの歩みとこれからの「PCの行く末」を語ってもらった。第2回はThinkPadの"こだわり"としてかかせないキーボードの開発話に加えて、入力インタフェースのこれからについて聞いた。

「ThinkPadの父」に聞く、現在過去そして未来 その1

日本IBMでThinkPadの開発に最初からたずさわり、現在はレノボ・ジャパン取締役副社長研究開発担当の内藤在正氏

「ゆずれないポイント、ナンバーワン」のキーボード

――ThinkPadの中で「キーボード」はどういう位置付けだったのですか?

内藤:IBMはタイプライターを製品としていたこともあって「キーボードはこうあるべき」だと考える人が多く、キーボードのプロであるという自負を持った人たちの流れを汲んでいるので、ここは譲れないという部分がありました。

見かけは他社の製品と同じように見えても、我々は異なる点に着目して開発しています。キーボードの中にあるゴムのキャップが、どうしてこのようなカタチでなければならないのかを理解して作っています。

キーボードの「トラベル」(ストローク長)はかつて、4mm程度ありましたが、いまでは1.8mm程度に短くなりました。しかし、文字を「入れた」らちゃんと「入れた」と分かるような反応があり、かつ、長い間使っていても、指が痛くなるようなことはない。そういうしっかりと入力できるキーボードを搭載するということは、ThinkPadとして「譲れないポイント、ナンバーワン」といってもいいでしょう。

――それで毎回設計に力を入れているということになるわけですね。

内藤:一番のポイントは土台の部分なんです。ここをしっかりと設計しないと、キーボードの部分だけをどれだけやってもダメなんです。1990年台のモバイルPCは、バッテリ技術などが未発達だったこともあって、大きくて重いですよね。

例えばThinkPad 600のキーボードが「最高だった」と言ってくださる方がいらっしゃるのですが、それは電池の上にキーボードがあって土台部分がしっかりとしていたからです。

キーボードの使いやすさなどで人気が高かったThinkPad 600

PCの軽量化が進んで、中の部品が軽く、そして小さくなると、ガッシリとした面がなくなってしまった。すると、同じキーボードを乗せても、キーによって、下の部分のたわみが変わってきて、微妙に押し加減が変わってしまう。使っている人が違和感を持ってしまうということがありまいた。

一時期、いろいろとご指摘を頂いたこともありました。そこでキー1つ1つを押してストロークと力の加え方がどのキーも同じになっているかどうかを調べるロボットを導入して、調査するといったやり方を取り入れました。

単に部品としてのキーボードの良し悪しだけでなく、筐体にいれたときの「トータルシステム」としてキーボードを考えなければダメなのです。いまではまたキーボードにかなり自信を持っています。

――つまり、土台部分の剛性が必要だと。

内藤:そうです。現在では、軽量化のためキーボード自体もガッチリしたものではなく、かなり薄いものになってきていて、その下の部分と組み合わせでしか、たわまないようにできないのです。いまのキーボードは、キートップとキートップの間に「桟」が入っています(注1)、本来はこうしたキーボードは搭載したくなかったのですが。

※注1:いわゆるアイソレーションキーボードのこと

しかし、ある程度まで筐体やキーボードが薄くなったとき、このような構造にしないと、剛性を保つことが困難になったのです。個人的には、昔のようにキートップが隣り合っているタイプの方が好きなのですが、薄型軽量とキーボードの剛性を成立させようとすると、それしか方法がありませんでした。

ThinkPad誕生25周年を記念した特別モデル「ThinkPad Anniversary Edition 25」ではかつてのキーボードが復活