周辺デバイスの活用方法は変わっていくのか

――少し話題が変わって周辺デバイスについてお聞きします。かつて、ThinkPadでは、液晶の上部にカメラやマイクを接続して一体化するような試みがありました。他社でも、専用オプションと一体化するような製品がありました。このような本体と合体して一体になるような周辺デバイスというソリューションは今後もありうるのでしょうか?

内藤:ThinkPadでかつてやったのは、カメラがまだ大きくて内蔵できなかったときに、テレビ電話やオンライン会議など、カメラとPCという組合せでいろいろとできることがあったので、あのようなカタチの周辺機器を出しました。ただ、どちらかというと「苦肉の策」でした。

私としては、もうやりたくない方法です。もちろん、あのころにどうしてもカメラが欲しいという人にはよかったのですが、カメラが小型化して内蔵できるようになると、無用になってしまいました。

私としては、インタフェースとして業界標準化したものを付けていきたい。デファクトでないものを採用するなら相当の覚悟がいる。そうしないと、結局お客さまに迷惑をかけてしまうことになります。

――カメラといえば、奥行きを取得できる3DカメラをPCやスマートフォンに搭載する例があります

内藤:3Dのカメラについては、3Dカメラそのものよりも、取得した3D情報を利用するアプリケーションに「キラーアプリ」がないというのが現時点での問題でしょう。テレビ会議の場合に、奥行き情報を使って、乱雑な背景を隠すといった応用などもあるのですが、キラーとまではいかない。

逆に3Dのキラーアプリが出てくれば、3Dカメラは普及することになるとは思うのですが。また、普通のカメラで3Dの画像を取得するといったことも不可能ではなくなってきました。ある程度解像度が高く、ソフトウェア処理の負荷に耐えられるなら簡単な3D情報をカメラ画像から得ることも可能なので、必ずしも3Dカメラが必須になるとはいえません。

――音声入力用のマイクについてはどうでしょうか? PCで録音すると、キーボードやペンの操作音が筐体を伝わってマイクに入ってしまって録音が聞きにくくなるようなことがありましたが。

内藤:特定の種類の音であれば、ソフトウェアの処理でその音を消すようなことが可能になってきました。かつては、テレビ会議などで、誰かがPCでメモを取り出すと、キーボードの音が流れてしまって、話が聞きにくくなっていたのですが、最近の機種では、テレビ会議中は、打鍵音を下げるように工夫されています。まだペンを使ったときの音は対策していませんが、これも問題になるようなら、そのうち抜く処理が入るようになるでしょう。

いまマイクロフォンで悩んでいるのは、ディスプレイを開いているときにも閉じているときにも話しかけたい、遠くからも話しかけたいといったように利用する場面が広がりに合わせて、どこに取り付けるのがベストなのかという点です。

スピーカーについても同じです。2in1のようにタブレットにした場合とクラムシェルにした場合、縦と横の方向など、さまざまな向きで使うとなると、どこがいいのかは難しい問題です。両サイドに付けるという漠然とした案もあるのですが、スピーカーとマイクがどこにあるべきか、もう少し研究する必要がありそうです。

――センサーの活用についてはどのように感じていらっしゃいますか? 最近のPCには、明るさや地磁気センサーなどが搭載されていますが。

内藤:センサーに関しては、すでに多くのものが搭載されていて、現時点では、十分ではないかと感じています。さらにセンサーを搭載するなら、使う理由が明確である必要があるでしょう。

例えば、一部のスマートフォンが搭載していてPCに搭載されていないものとして、気圧センサーがあります。階段の昇降などを検出することができるのですが、まだ「キラー」となる利用方法がない。あまり沢山搭載しても、使い道がなければ、どうしようもない。これからどんどん増えるのかというと、そうではないでしょう。

最近ではゲイズ(注視。いわゆる視線入力)もあるようなのですが、ビジネスだと、テレビ会議のような使い方でないと、あまり使われないデバイスです。どちらかというとビジネスではあまり好まれていないようです。

イベントで「カメラのところに付箋を貼ったことがある人、手を挙げて」というと、多くのビジネスパーソンが手を挙げます。ホテルの部屋でラフな服装でくつろいでいるときなどに、テレビ電話がかかってきたとき、できれば、カメラをオフにしたくなります。「見られている」という感覚は場合によっては、好まれないことがあるのです。

カメラを使って視線でカーソルをコントロールするのは、特定の使い方を除けば、あまり普及しないと考えています。目を入力装置として使うことに無理を感じるからです。マルチディスプレイ環境で、ユーザーが見たディスプレイにカーソルを移動させるという使い方はあるかもしれません。当社でも実際に試作したことがあります。しかし、ディスプレイの中でカーソルを視線で動かすのは、精度の問題もあり、一般への普及は難しいと思います。

次回はノートPCにかかせないバッテリの進化や、使用される素材へのこだわり、ThinkPadのデザインについて聞く