日々のセンシングと体力・認知機能の測定を人工知能が解析して利用者にトレーニングメニューをレコメンドする。総合的な健康プラットフォームを目指す理念こそ理解できるが、それだけで未病対策とはいかないのが実情だろう。廣部氏もその点は認識しており、「FAITはプラットフォームと呼んでいる。データを自社に閉じることなく、例えばほかのプラットフォームで集積しているバイタルや血圧といったデータと組み合わせられるようにAPI化して連携を容易にしている」と話す。

そのサービスモデルは「FeliCaみたいなもの」(廣部氏)と自社プラットフォームを引き合いに出す。つまり、FAITタグやスポーツセンサーから得られるデータはあくまでベースであり、これらが紐づくデータ・アカウントをベースにさまざまなフィットネス・ヘルスケアサービスの連携を可能にする。タグが会員証として利用できるのもこの理念を形にした一つの事例であり、「相手側(事業者)のサービスの下支えになるつもりでやっている」(廣部氏)という。

もちろん、自社プラットフォームとして他サービス連携も検討している。

Work Performance Plus」と呼ばれる生活習慣の改善サービスでは、スマホアプリで食事を撮影することで画像認識技術で料理の自動判定、カロリー計算を行う。食事のアドバイスから体力・認知機能の測定まで、人々の日常をすべて記録することでトータルにその人個人の生活習慣を把握できるようになる。こちらもB2Bサービスとして提供していることから、事業継続性やデータの集積などが期待できる。FAITとの相乗効果も期待できるだろう。

サービスの将来像は、「健康の未来予測を実現したい」と廣部氏。実は現在のIoTデバイスが実現するヘルスケアの各種トラッキングデータは「正解データがない状況」(廣部氏)だという。体力・認知機能の測定や体重・体脂肪率など、複合的なデータを集積してこそ、初めて正解データに繋がっていくものであり、このサービスが本格稼働することで、従来の大学の研究・調査結果の枠を超えたビッグデータとしての価値が真に生まれるというのが廣部氏の狙いだ。

「1カ月ごとのデータが数百、数千、数万と蓄積していけば、健康状態の推移が先々こうなっていくのではと予測値を個別アドバイスに応用できる。サービスイン後、半年ほどで解析に足りうるものが蓄積できるのではないかと期待している。これまでのデータは、例えば学校の体力測定などは年に1回、体調が悪いときなどにしか行えない場合、データの信頼性の問題もあった。そうした体調の平準化なども含め、このデータが持つ意味合いは非常に大きいと思う」(廣部氏)。

IoTの一つの期待がこのヘルスケア分野だ。もちろん、Fitbitや国内でもオムロン、タニタといったヘルスケアのプレイヤーが先行している上、本来がっぷり四つで組むべき相手のAppleやサムスンなど、正攻法で戦うべき相手と戦える土俵に立ちづらいジレンマはあるだろう。

しかし、B2Bモデルでこうしたデータを蓄積することは、今日明日に繋がらなくても3年後、5年後に生きてくる可能性はある。「強いソニー」の種蒔きになることを期待したいところだ。