半導体パッケージング(実装)業界では、ファンアウト型ウェハレベル・パッケージング(Fan-Out Wafer Level Packaging:FOWLP)への注目が高まっているが、その成長はどこまで続くのか。また、FOWLPの次のキラーアプリケーションは何になって、ファンアウトパッケージでも独り勝ち状態のTSMCに対する挑戦者が現れるのか、そしてウェハの代わりにパネルを用いたファンアウト技術は実用化されるのか、といったような疑問に対し、半導体市場調査企業の仏Yole Developpementは、「Fan-Out:Technologies&Market Trends 2017」と題したレポートを10月に発行して、それに答えようとしている。その概要が9月12日に公開されたので、本稿ではそれを元にFOWLPの今後を予測していきたい。

FOWLPに代表されるファンアウト・パッケージ技術は、過去2年の間、パッケージング業界で最も注目されてきたトピックであり、今後も引き続き注目されると、Yoleは見ている。

YoleのAdvanced Packaging&Semiconductor Manufacturing担当シニアテクノロジー&マーケットアナリストであるJerome Azemar氏は「2016年、TSMCのInFO-WLPと名付けられたFOWLPは、米AppleのiPhone 7に搭載されたA10アプリケーション・プロセッサを実装するために使用された。それ以降、FOWLPは、複雑な用途でも大量生産できることが明らかになり、業界の関心を呼んでいる」と説明している。Appleは引き続き、2017年に発表したiPhone 8やiPhone Xに搭載される次世代アプリケーションプロセッサA11の実装にもTSMCのInFO-WLPを採用したことで、同社がFOWLPの能力を高く評価していることが明らかになった。

これがすなわち、ファンアウトパッケージングがパッケージング市場全体を席巻することを意味するのかというと、先端パッケージング業界では、いつものことではあるが、そんな簡単に物事は進まない。

ファンアウトに存在する2つの市場 - 「コア」と「高密度」

ファンアウト・パッケージ市場は、次のように2つに分けられる。

  • コアファンアウト市場:ベースバンド、パワーマネージメント、RFトランシーバなどのシングルダイ・アプリケーションのための実装
  • 高密度ファンアウト市場:Appleのアプリケーションプロセッサの実装から始まった、新たな市場。プロセッサやメモリなどのIO接続数の多いアプリケーションのための実装

JeromeAzemar氏は、「両市場とも大きな可能性を秘めており、成長が速いと見込まれるが、各市場は異なるプレイヤーによってけん引されている」と述べている。例えばコアファンアウト市場は、もともとは2009年にIntel Mobile Communicationsのニーズに応えるために立ち上がった市場で、現在は、オーディオコーデック、パワーマネジメントIC、ベースバンド、レーダーなどのサイズの小さい、IO接続数の少ないアプリケーション向けに、Qualcommnなどの主要大手半導体メーカーが採用している。

こうした市場において、JCET/STATS ChipPAC、ASE、米Amkor Technologyなどの大手OSAT(後工程受託企業)は、うまくポジションを確保しており、FOWLPは、フォームファクターの縮小、ダイ埋め込みの柔軟性、電気的性能などの利点から、モバイルへの応用分野を中心に今後数年間は着実に市場が成長するとYoleは見ている。

一方の高密度ファンアウト市場はコアファンアウト市場の様相とはかなり異なったものとなっている。対象となるアプリケーションはハイエンド分野のものであり、数千のIO接続を持つことが求められる。

すでに、AppleのA10やA11などのアプリケーションプロセッサに適用されて、パッケージ薄型化と高い電気性能を提供しており、その優秀さを示している。現在のところ、そのAppleが唯一の顧客ともいえるが、今後はQualcommやSamsungなども採用する可能性が高い。また、将来は、ファンアウトパッケージの高帯域幅能力に着目してハイパフォーマンスコンピューティングやネットワーキングなど、他のハイエンドアプリケーションが登場する可能性もある。

図1 ファンアウト実装のレベル。それぞれ異なる用途に向け、異なるサプライヤによるファンアウト実装プラットフォームが提供される。縦軸がIO数、横軸がパッケージ・サイズ(mm×mm)。左下の枠はコア(基本的な)ファンアウト、中央が高密度ファンアウト(第1段階:アプリケーションプロセッサ用)。右上が高密度ファンアウト(第2段階:HPCやネットワーキング用途) (出所:Yole)

高密度ファンアウト技術の売り込み先は、主にアプリケーションプロセッサ市場であるが、ファンアウト・パッケージ・サプライヤの状況はコア市場とはかなり異なっている。現在、TSMCだけが可能な技術であり、出遅れたOSATたちが市場に参入するのは数世代ほど後になる見通しだ。

高密度ファンアウトの市場規模は、2017年にすでに5億ドルに達しており、Apple以外の企業がファンアウトパッケージに切り替えることになれば、今後数年間で10億ドル以上に達する可能性があるとYoleは見ている。また、高密度ファンアウトは将来性が高く、コアファンアウトは堅実に成長していく可能性が高いことから、Yoleではファンアウト業界のサプライチェーンが形成されていくことへの期待を示している。

図2 ファンアウトパッケージの市場規模(単位:10億ドル)の変遷予測。緑棒は「コア」市場、赤棒は「高密度」市場を指す。2015年から2017年に至る年平均成長率は約90%で、これはAppleがTSMCに製造委託しているA10およびA11プロセッサへのファンアウト実装適用によるところが大きい。2018年から2022年に至る年平均成長率は約20%でApple以外の企業(米Qualcomm、韓Samsung Electronics、中Huawei)の製品への適用によるものと予測される (出所:Yole)

次世代技術とされるファンアウト・パネルレベル・パッケージ

現在、一部の企業はチップキャリアのサイズを大きくして、ファンアウト実装のコストを削減しようとしている。円形のシリコンウェハから四角い大型パネルへとキャリアを変更することで、大幅な経費削減が可能になるというのだ。

韓NEPESは、すでにパネルを用いたファンアウトパッケージ(Fan-Out-on-Panel Package:FOPLP)を製造できることを発表している。また、ASEはじめとする多くの半導体実装業者は、パネルレベルのファンアウト実装の早急な実用化をはかり、できるだけ高いシェアを獲得しようと懸命に準備を進めている。

以下の図は、WLP(ウェハレベル・パッケージ)とPLP(パネルレベル・パッケージ)の割合の推移予測を示したものだが、今後もウェハキャリアの使用が主流を占めるものの、パネルキャリアを用いた生産もまもなく立ち上がり、徐々に市場を形成していくことが予想されている。

現状、FOPLPはまだまだ初期の段階であるため、コスト効率の高いラインを構築するためにさまざまな検討が行われている。使用されるパネルには、プリント回路基板や液晶ディスプレイに使用されるガラスパネルなどが候補として挙げられているが、そのサイズはまだ標準化されておらず、他の素材を用いたパネルの開発も進行中であるといわれるが、歩留まり、パネル材の反り対策、製造コストなど、多くの課題を抱えており、まだまだ時間がかかる模様だ。

図3 ファンアウト・パッケージングを適用する場合の200mシリコン基板を用いる割合(%)、300mmシリコン基板を用いる割合(%)、ガラスパネルを用いる割合(%)の変遷予測(2010年~2022年) (出所:Yole)

なお、SamsungはiPhone用アプリケーションプロセッサの製造受託商談獲得競争で、A10プロセッサもA11プロセッサもTSMCに受注を取られたが、その主因はファンアウト・パッケージ技術開発の差にあるといわれている。Samsungは捲土重来を期して、ガラス基板を用いたPLPの開発に注力しているとされている。大型ガラス基板の搬送や微細回路加工には、同社が液晶パネル製造で培ってきたノウハウを活用できるためで、先端プロセスの導入と、ファンアウトパッケージの高度化によって、iPhone用アプリケーションプロセッサの製造受託をTSMCから取り戻し、ファンアウト・パッケージのセカンドソースになれるかが注目される。