続いて、ワインのテイスティングを体験させていただいた。テイスティングなどというと少々気取っているが、ようは「タダ酒が飲める」というくらいに考えていた。内心はニヤニヤしながら、目の前に並べられた3種の白ワイン、1種の赤ワインを神妙な面持ちで飲み比べてみた。すると不思議なもので、味のちがいが伝わってくる。普段は1種のワインを「おいしい」と思いながら飲むが、異なる銘柄を飲み比べることはない。こうしてグラスを並べて飲み比べれば、それなりにワインの個性を感じ取れる。

そして、最後に注がれた赤ワインにびっくりした。これは「桔梗ヶ原メルロー」という、シャトー・メルシャンの“顔”ともいえる銘柄で、あきらかに普段飲んでいるワインと味わいが異なる。それこそ、いつも飲んでいるのはメルシャン藤沢工場で生産された、1本500円くらいのものだが、まったく別物のように感じた。あとで広報担当者から聞いたことだが、“諭吉さん2枚を超す”価格のワインだそうだ。

テイスティングに用意されたワインとそのボトル

デイリーワインに馴染んだ層をいかにステップアップさせるか

ただ、ここで違和感も憶えた。確かにワインを楽しむ層が増えたのはまちがいない。しかしそれは、安価なワインがコンビニやスーパーで手に入れやすくなったことが大きな理由。そうしたデイリーワインに慣れ親しんだ人々が、このシャトー・メルシャンのラインに手を伸ばすだろうか。テイスティングに提供してもらった白ワインも2,000~3,000円はする。

デイリーワインで裾野を広げることには成功した。メルシャンとしては、こうして増やしたワイン愛好者の何割かに、シャトー・メルシャンといったハイブランドへの興味を持ってもらいたいというのが本音だろう。だが、ワンコインでワインを楽しんでいる層が、そうしたハイブランドに簡単に軸足を移すとはあまり考えられない。つまり、デイリーワインとシャトー・メルシャンの隙間を埋めるブランドが弱く、ワイン愛好者が少しずつステップアップしにくい状況が生じてたのだ。

この点をキリン(メルシャンはキリングループ)の担当者にたずねると、「そうした谷間を埋めるために『カッシェロ・デル・ディアブロ』というブランドを扱い始めました」との答えが返ってきた。このブランド名はスペイン語で「悪魔の蔵」という意味。その昔、あまりの美味しさに“盗み飲み”が絶えず、創立者が「この蔵には悪魔が棲んでいる」とのウワサを流したところ、盗み飲みがなくなったという逸話を持つ。取り扱い以降好調で、2016年第1四半期には、販売量が前年比142%も伸張したという。

こうして、デイリーワインとシャトー・メルシャンのようなハイブランドの隙間を埋める商品の目途は立ったが、気になる点がもうひとつある。それは、ここ1~2年、ワインの消費量が鈍化している兆しがあることだ。

テイスティングのあとはランチとなったが、ここでもワインが提供された