ソフトバンクグループが開催する企業向け展示講演イベント「SoftBank World 2017」の初日となる7月20日、会場ではCEO 孫正義氏による基調講演が行われた。決算発表会などでも繰り返し述べているように、孫氏は改めて氏の考える情報革命とシンギュラリティ、そしてそれを後押しするソフトバンクビジョンファンドについて語った。また、後半には同社が出資するパートナ企業を紹介し、ボストン・ダイナミクスのCEO and Founder Mark Raibert氏、ARMのCEO Simon Segars氏などが登壇した。
情報革命のジェントルたるソフトバンク
SoftBank Worldは今回で6回目。当初は基調講演で「iPhone持っていますか? iPad持っていますか?」という話をしていたが、この6年間でそんな話題を出す必要がないほど世の中が様変わりしたと振り返る孫氏。しかしこの先は「もっともっとすごい変革がやってくる」と言う。
18世紀英国の産業革命では、王族から土地を与えられた特権階級「ジェントリ」が資産を運用し、単に自分たちの利益を得るだけでなく社会貢献の意識で道路や船といった当時のインフラに投資していた。その企業家的な投資が新しいテクノロジー開発にも貢献したという。新しい発明による技術と、リスクをとる資本。その両方が重なって、産業革命が起きたと孫氏は述べた。
「産業革命は、より速く走る、重いものを持ち上げるなど、人間の五体が持っている機能やパワーの拡張でありました。一方で情報革命は筋肉というよりも頭脳、知識知能を拡張させる革命であります。知能の拡張である情報革命は、本当にすごい変革をもたらすと思っています」(孫氏)
人間がPepperに追い抜かれる日
近年、孫氏は折に触れてシンギュラリティについて語っている。シンギュラリティ(技術的特異点) =「人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事」とされ、2045年問題と言われたり、まだ50年先だとも言われる。しかし孫氏によると、それは人類の歴史から見れば誤差の範囲に過ぎない。
世界の人口が70億人であるのに対し、IoTで繋がる機器の数は1兆個にも上ると考えられている。そこから生まれるデータをクラウドにつなぎ、人工知能で解析、学習させる。そういう世界が実現すると考える氏から見れば、シンギュラリティは早かれ遅かれ「必ずやってくる」ものだ。
「それがいいことなのか悪いことなのか、これから我々が大いに議論すべきテーマでありますが、望むと望まざるとに関わらず、必ずやってくる。やってくるとするならば、それをより良い方向に導こうではないか、というのが我々の考え方です」(孫氏)
人間が囲碁将棋でコンピュータに勝てなくなったように、あらゆる分野で人間よりもコンピュータの方がはるかに賢くなることを疑っていない、と言葉を重ねた。
「Pepperを単なる操り人形じゃないか思っている人はたくさんいます。しかし、そんなものは入り口に過ぎない。これからPepperが進化する中で、今Pepperをバカにしている人たちは、バカにした彼らに追い抜かれるという現実を見ることになっていくだろうと思います」(孫氏)
革命とは、力を合わせてこれまでの世界に挑むこと
「ソフトバンクは、新しい時代のジェントリになりたい」と語る孫氏。実際にこれまで1兆円以上の投資を行い、結果的に20兆円を超えるリターンを上げ、「過去これほどの規模で、これほどの率で収益を出した会社は世界にないと自負している」という。アリババの成長が大きいことは間違いないが、それを除いてもIRRは42%に達していることを示した。
「これは単に一回ヒットを打ったのではなく、戦略的に何度も打席に立ち、失敗もしながら、当たったヒットの方が多かったということを意味している。偶然にそうなったのではなく、意図してリスクを取りに行っている。情報革命に必要なジェントリを買って出ているわけです」
その規模をさらに拡大しようと設立した「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」では、世界のベンチャーキャピタルによる昨年1年間の調達総額7兆円を超える、10兆円規模の資金を用意。同じ志を持つアントレプレナーが集まり、力を合わせて革命を起こすことを目指す、としている。
「革命は決して1人の力でできるものではありません。力を持たない一般市民が、力を合わせてこれまでの世界に挑戦し、変えていくことが革命です。ソフトバンク1社では決して大きな力を持っていません。しかし、同じ志を持つ起業家たち、同志的結合による仲間たちと一緒に、革命を起こそうと考えています」