――モーションにこめたキャラクターの心情について伺いたいのですが、特に印象つけるために振りをつけたような箇所は他にありますか?

乙部氏:
ラストのオバレのダンスの冒頭で、ヒロが腕を組んでうつむいているシーンがあるのですが、キャプチャデータだと単にうつむいているような感じだったんです。

そうしたら、演出の京極さんから「喜びをかみしめているような感じにしてください」とオーダーがあり、少し眉をひそめて、頭をわずかに振っているような動きを足しました。とはいえ、本当に小さな違いですね。これが確かV編の1週前くらいに来て…。

ヒロが喜びをかみしめているシーン

――かなり終盤で追加されたということですか?

乙部氏:
そうですね、確か、5月7日ごろに固まっていたバージョンの後の変更で、そのタイミングで…と思うようなタイミングでした。

――かなりギリギリまで演出は変更されていたんですね。

乙部氏:
夜中の12時くらいに制作から電話がかかってきて、演出の京極尚彦さんから直々に「本当時間なくてすみません」と伝えられて、こちらは「分かりました」と(笑)

――このレベルのギリギリの変更はほかにありましたか?

乙部氏:
ほかにはないかと思います。あとは、自主リテイクみたいなことを結構やっていて。監督がOKを出していても、「足りない」と感じたところにエフェクトを足したりしていました。

たとえば、最後のヒロが「朕はプリズムショーなり」と言って剣を掲げるところですね。監督のコンテでは剣を掲げた時に背後がパーッと光るというものだったのですが、通しで見た時に何か足りないと感じてしまったんです。

「朕」ってフランスとか中国の王様の一人称で、キンキラキンのゴージャスなイメージなので、後ろに金のバラのような模様を付け足したら、そのセリフに合うかなと思ってやってみたんです。ほかの人に聞くと、「(リテイク前から)もう王になってました!」と言ったりするんですけど、見慣れていると足りない気がしてきちゃいまして。

自分では満足が行った変更とはいえ、監督はもうOKを出しているカットなので、ひやひやしながら足したバージョンを見せたら、ゲラゲラ笑いながら「いいですね~、ありがとうございます!」と言ってくださって(笑) この自主リテイクを経て、ヒロが王になれたという実感が僕の中では得られましたね。この追加も実は結構ギリギリで、今年5月になって入れました。

ヒロのプリズムショーのワンシーン。乙部氏が自主リテイクした場面は劇場で確かめてみてほしい

――話題は変わりますが、アレクの攻撃力が増していたというか、飛行する動きや爆発が派手に使われていて、プリズムショーとしては異質でした。とはいえ、日本のアニメにおけるCGの使い方としては逆にスタンダードだと感じました。

乙部氏:
プリパラとかプリティーリズムでも、たまに爆発シーンはあるんですけど、キラキラしたエフェクトが混じっていたり、色がついていたりとかして、直接的な破壊のイメージは出さないようにしていました。ですが、今回はガンガン破壊していいということで、かつ、そういうのはCGの得意なところなんで、久々にやらせてもらいました。

――アレクが分身して、戦闘機のように隊列を成して飛んで、腹筋から爆弾を出していましたからね。あのシーンはCGでないと大変だろうと感じました。

乙部氏:
爆発シーンを最初に見せた時、モニターを見てる菱田さんの顔をチラって見たら、満面の笑みを浮かべて、これが見たかった!みたいな顔をしていて、僕は「よしよし」って思っていました。菱田監督は男児向けのホビーアニメの制作を多く手がけてきた人ですし、やっぱり男って、爆発が大好きなんですよ。

――あれだけ派手に爆発したシーンでしたが、確か菱田監督が舞台挨拶で「実は死傷者ゼロ」という設定があるとお話されていましたね。

乙部氏:
はい、誰も怪我してないです。レビテーションで風が舞って、上手いことバリアになっているとか。カヅキも会場再建に当たってみんなを浮かせてましたが、アレクもちゃんと最初にレビテーションをして、絶妙な調整で人を浮かせているから怪我人は出していません。観客のことは気遣ってくれてるんです。

――レビテーションのモーション自体は前作からの転用ですか?

乙部氏:
そうです、エフェクトはちょっと派手になっていますが、基本そのまま使っています。

――アレクVSタイガのダンスバトルは、修羅場うちわが印象的でした。制作面で何かエピソードがあれば教えてください。

乙部氏:
そうですね、プリティーリズムでライオンや虎のCGモデルを作っていたので、それを改造してアレクVSタイガの竜虎対決をできるようにしたこと、でしょうか。

――その後に披露されるシンのプリズムキングカップでのライブは、アングルなどは違いますが基本的に前作と同様でしょうか?

乙部氏:
前作との違いとして、カヅキとヒロが舞台上からいなくなった分、シンがひとりで踊りますから、そのための追加はあります。

あとは、何より表情ですね。前作でのシンはとにかく笑顔で踊っていましたが、今回、実はちょいちょい攻め顔というか、少し眉毛をあげて、「俺かっこいいだろ?」というような表情をしているカットを差し挟んでいます。それは一度封印されてから再び解かれて、「何か」が表に出てきたのだろうなというのをイメージしています。

シンのプリズムショーのワンシーン。前作でも披露された曲とダンスだが、表情に変化が。

なので、もう一回見ていただけると、結構シンって見得を切るというか、目で殺すような表情になったと思ったらまた笑顔に戻ったり、魔性を感じさせるような表情づけをしています。

――顔の表情のモーションは基本的にすべて手でつけているのでしょうか?

乙部氏:
そうです。

――ほかに、ここの表情を見て欲しいというキャラクターは?

乙部氏:
ルヰのジャンプの時の顔つきでしょうか。また、アレクも結構クワッと力の入った、表情筋の影ががっつり入ったような顔にしています。でも、踊っている時は結構アイドルらしい笑顔を浮かべています。

実は、アレクの怖い表情も一度作ってみたんですが、怖すぎるというか、ダンスシーンは威嚇する場面ではないなと感じて、個人的に没にしました。あえてイケメン風の顔つきにして、惚れさせてからの破壊、そして奴隷にするというような、暴力天使みたいな感じがいいかなと思って、今のような形にしました。

進行の面で言うと、プリズムキングカップのコンテが上がったのが1月なんです。お正月が開けてからはじめて内容を知るという進行でしたので、かなりギリギリでした。当時、僕はプリパラの方では神アイドルグランプリをやっていて、もう片方のキンプリでは王様を作らなきゃいけなくて、当然両方とも失敗するわけにはいかないので、工数というか期間としてはそうとう短い間に作らないといけない状況でした。