こんにちは。パナソニック アプライアンス社デザインセンターの中川仁といいます。2017年4月に、私たちはイタリアで開催された「ミラノサローネ」(ミラノデザインウィーク)で展示を行いました。

普段、私はテクニクスブランドのヘッドホン「EAH-T700」、手回し充電ラジオ「RF-TJ10」をはじめオーディオ製品のデザインを行っているのですが、ミラノで展示したのはそういった市販製品ではなく、「GO ON×Panasonic Design」というプロジェクトから生まれた、伝統工芸とテクノロジーが融合したプロトタイプでした。

ミラノでのお話をする前に、このプロジェクトについて紹介させてください。

ミラノサローネでのパナソニックの展示「Electronics Meets Crafts:」

次の100年の豊かさを追い求める「GO ON×Panasonic Design」

私たちパナソニックは、2018年に創業100周年を迎えます。そこで、次の100年の豊かさって何だろう? 次の100年の豊かさを支える家電って何だろう? ということを考え始めていました。

ある時、同じように次の世代にどうやって伝統工芸を繋げていくか、未来の豊かな生活にどう関わっていくのか、ということを考えておられるクリエイティブユニット「GO ON」の方たちと出会いました。彼らから学び、一緒に考えていくことで、何か実りある未来を描けるのではないかと思い、プロジェクトを開始することに。今となっては懐かしいですが、最初は京都にある建仁寺の両足院で座禅を組むことからスタートしました。

ミラノサローネに合わせ国外出展したきっかけ

このプロジェクトがなぜミラノで展示されることになったかというと、きっかけは2016年の秋に行った、最初の展示会でした。京都の町家を会場として行ったこの展示会で、多くのデザイン関係者の方、メディアの方、また一般の方にもプロジェクトから生まれたプロトタイプをご覧いただき、予想以上に高い評価をいただきました。

茶筒を筐体としたコンパクトスピーカー「響筒 kyo-zutsu」

プロジェクトから生まれたプロトタイプは複数ありますが、例えば、手のひらサイズのコンパクトスピーカー「響筒 kyo-zutsu」は、非常に高い技術で生み出される開化堂の茶筒を筐体とし、普段耳で聴く音を手のひらで感じられる逸品です。

このように、伝統工芸のもつ素材の魅力や代々受け継がれてきた職人の手から産み出される緻密で味わい深いモノに、私たちのテクノロジーを忍ばせることで「こころあるモノ」となり、人とモノとの自然な距離感がうまれ生活に溶け込み、人の記憶や五感を揺さぶる豊かな体験を提供することを狙いました。

これまでの100年は、いかに簡単、便利、使いやすい、という「機能価値」を追求してきましたが、次の100年を豊かにする家電は、体験を通して心揺さぶるような「感性価値」が必要ではないか、という私たちの考えるこれからの家電のひとつの方向性を提示できたと思います。

IH技術と伝統工芸「朝日焼」を組み合わせることで、木製カウンターの上に置かれた磁器の湯盤の水が沸き立つ「銀釉 gin-yu」

IHからの非接触給電で酒を冷やしたり温めたりできる「銀砂ノ酒器 Ginsa-no-shuki」

この展示の反響を受けて、日本で展示を通じ伝えることができた私たちの考え方や想いが、世界でどれほど伝わるのか挑戦したいという熱が、メンバーの間でわきあがりました。その気持ちを後押しするかのように、アプライアンス社社長の強いバックアップもあって、ミラノへの道が開けたのです。

商品をアピールする場は他にもたくさんあるのですが、デザインやそのコンセプト、ストーリーを世界に向けて発信する場としては、やはりデザインを受け入れる文化や歴史があり、世界中のデザイナーや企業が集まり、その動向に注目が集まるミラノサローネをおいて他にはないと思いました。

また、我々パナソニックはもっともっとグローバルに活躍の場を広げたいと常々考えています。さらに家電でいうと、欧州というマーケットにおけるパナソニックブランドのプレゼンスを向上させたいという強い想いもあります。上手くいけば、そのきっかけのひとつになるかもしれないとも考えていました。