1月31日に米Apple会計年度で2017年度第1四半期(2016年10-12月期)の決算が発表されたが、国内外の多くのメディアには「3四半期連続減収減益のAppleがiPhone販売増で復活」のような見出しで大きく取り上げられた。この結果には賛否両論あるものの、決算発表後に株価が大幅躍進したことを考えれば、市場には好意を持って受け入れられているのだと判断する。一方で、この結果が今後のAppleならびにiPhone新製品に関してマイナス面に働く危険性を筆者は感じ取ってもいる。今回は決済の中身を読み取りつつ、次期iPhoneに関する噂を振り返ることで、今後のAppleとiPhoneの動きをみていく。

iPhoneを主な収益の柱とするAppleが同製品の売上で躓いたことは先行き不安による株価下落を招いたが、FY2017Q1決算を経て同社株価は1割近く急上昇し、2月13日にはほぼ2年ぶりとなる過去最高水準の133.54ドルで取引を終了している。実際、今回の発表をもって同社の株価目標を大幅に引き上げるアナリストが複数出ており、少なくとも直近での業績に対する不安は取り除かれたと市場では判断されたとみている。ただ、iPhoneに次ぐ主力とみられていたiPadは相変わらず振るわず、Apple Watchも同社の業績を大きく押し上げる要因にはなっていない。自動車関連のプロジェクトをはじめ、"iPhoneの次の柱"を探すという道のりはまだ途上にあるのが現状だ。iPhoneによる一本足打法がまだしばらくは通用するということが示されたに過ぎない。

Appleの過去10年の株価推移。2月中旬時点で過去最高の水準を維持している(出典: Google)

もう少し数字を詳しく見てみる。FY2015Q1から翌年同期のFY2016Q1におけるiPhoneの売上と販売台数はともにほぼ横ばいで、iPadならびにMacの減少分を他の製品(おそらくはApple Watchなど)やサービスでの売上増でカバーして2%アップを実現している。直近のFY2016Q1からFY2017Q1では売上は3%アップだが、その内訳はiPadのさらなる減少分をサービスとiPhoneの上昇分でカバーしている。iPhoneは販売台数と売上ともに5%のアップだが、FY2016Q1の売上を販売台数で割った数字「690.5」と、FY2017Q1の売上を販売台数で割った数字「694.6」を比較するとわかるが、若干だけ販売単価が上昇している。やや暴力的な判断になるが、ユーザーが高価格帯の製品へとシフトしているといえるかもしれない。

Appleが発表した2016年度第1四半期(2015年10-12月期)の決算資料

[Appleが発表した2017年度第1四半期(2016年10-12月期)の決算資料

実はAppleが決算を発表する少し前、Wall Street Journalが興味深い記事を掲載していた。そこで紹介されいたCowen & Co.の予測データによれば、iPhoneが6以降に大画面の「Plus」と通常版の2種類に分岐してから、前者の販売比率はiPhone 6の世代で14%、iPhone 6sの世代で15.5%だったものが、iPhone 7の世代には24%まで急上昇している。iPhone 7での最大のポイントは「デュアルカメラ」の採用で、特に被写界深度エフェクトなどこの機種特有の機能が提供されている(6時代も手ぶれ補正機構採用という違いはあったが……)。実際にはiPhone SEや5sのような旧モデルも売上の中に混在することで、若干複雑な内訳にはなっていると思われるが、1つの可能性を示唆しているとも考えられる。それは、iPhoneファンまたは同エコシステムにロックインされたユーザーが新機種へのアップグレードで買い支え、さらにより高機能版の製品を好んでいるというものだ。ただ、近年は携帯電話の買い換えサイクルが延びる傾向にあり、従来まで2-3年だったものが3-4年などになっているといわれる。米国では携帯キャリアが2年縛りによる携帯電話の割引販売を終了した影響によるものだが、Appleが近年「iPhone Upgrade Program」の提供に力を入れているのも、こうした事情が背景にある。一方で、今回のFY2017Q1決算で同社がiPhone事業の成長を維持したことで、新規ユーザーの新規流入が引き続き発生しているともいえる。

筆者が2017年の年頭に「2017年のiPhoneとAppleの動向を占う」と題して、同社ならびにその主力製品であるiPhoneの今後を予測した記事をまとめたが、少なくともAppleは2016年末のホリデーシーズン商戦でのiPhoneの販売状況がそれほど悪くないことを把握しており、製品計画が「保守的なもの」に傾いていることを紹介している。保守的とは良くも悪くも現状維持で、「あまり冒険しない」ということを意味する。iPhone 7が出る少し前、「iPhoneはいつ買うべき? 2016~2017年の購入ガイド - 新モデル登場サイクルの変化にどう対応するか」 という記事の中でWall Street Journalの「2016年に登場のモデルはマイナーチェンジで、2017年にデザイン変更のモデルが登場する」という報道を紹介しているが、Appleはあえて冒険をして既存ユーザーの離反を招くよりも、既存の製品ラインを維持しつつ、こうしたAppleのコアユーザー層に向けた製品を追加投入することでリスクを低減しつつ、一定の進歩性を市場に提示する方向を選択すると筆者は考えている。具体的には、今年2017年秋に登場するモデルでは噂の「OLED」モデルを投入しつつも、その比率はiPhone全体の1-2割程度にとどめ、残りは「保守的」な選択であるiPhone 7のシャーシやデザインを踏襲したモデルを残りの大部分の需要に充ててくるのではないかと予想する。