8日に行われたソフトバンク決算発表会の冒頭、孫氏はソフトバンクの事業領域が「情報革命」であると語った。それは、同社の新たな投資、そしてソフトバンクビジョンファンド(以下、SVF)の設立へとつながっている。後編では今後の展望に関わる部分を中心にレポートする。

ソフトバンクグループ 代表取締役社長 孫正義氏

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「買って良かった」ARMの現状と未来

スプリントの「買わなきゃよかった」とは対照的に、昨年買収したARMについては「買って良かったと、心の底から喜びを噛みしめている」と満足ぶりを強調した。しかしそれは、現状の業績に対するものと同時に、今後の戦略に向けた期待という意味合いが大きいようだ。過去の大型買収以上に、ARMの存在は同社の事業の形を変える大きな転換点になっている。

「世界中の人がスマホを使っていて、その99%がARM(のチップを搭載)。ソフトバンク創業以来、始めて世界で圧倒的1位のポジションを、今後10年20年という単位で考えて最も重要な事業セグメントにおいて取ることができた。今後『ソフトバンク2.0』としてやりたいことの非常に重要な戦略的ポジション、オセロで言えば四つ角のひとつを押さえたことになる」(孫氏)

全世界の人が年間2個以上のARMを買っている計算になる

ARMの業績は順調に伸びており、売上高は前年同期比で8%増の1,381億円。チップの出荷数は2016年4-12月期で125億個。年間にすれば160~170億個に上る。また、先行投資として研究開発費を大きく増やし、前年同期と比べると約1.5倍の金額に達している。

「今、着々と『ARM2.0』のための準備を始めている。私自身、直接深く関わり、その戦略とビジネスモデルを作っている最中だ」(孫氏)

欧州、日本の次世代スパコンでもARMを採用

各国の次世代スーパーコンピュータがARMを採用するなど、小型電子機器に限らず"馬力"の必要なスーパーコンピュータの世界でもARMが存在感を増しているという。研究開発を加速させていることについて「何をしているのかは訊かないで欲しい」と述べた孫氏だが、あえてこの話を持ってくるところに、何も含みがないと言い切れるだろうか。

地上の全てを圏内にするOneWebへの出資

昨年末、ソフトバンクは人工衛星を使った通信サービスの提供を目指す企業「OneWeb」(ワンウェブ)へ、千数百億円規模の投資を行うことを発表した。

静止衛星軌道と比べ、衛星までの距離は1/30に

OneWebは、地球から約1,200kmの低衛星軌道に約700~800基の小型衛星を打ち上げることで、全世界に高速の衛星通信を提供することを目指す企業。過去にも静止衛星軌道上の人工衛星による通信サービスが提供された例はあるが、衛星までの距離が遠いために遅延が大きく、コストも高いものであった。

しかしOneWebが計画するサービスは衛星までの距離が近いため遅延は光ファイバーなみに小さく、出力も小さくて済むため衛星自体の小型化が可能。受信側のアンテナも小さな設備で対応できる。さらに、真空に近い軌道上にあるためノイズが少なく、最大で下り200Mbps/上り50Mbpsという高速通信が可能だ。

アンテナも小型化でき、乗用車が基地局にもなる

「携帯電話事業者をやっていると、最後の1%、2%をつなぐのにそれまでの98%をつなぐのと同じくらい設備投資がかかり、投資効率が悪い。だから、世界の事業者は最後の数%は諦める。それが衛星からつながるということは、地球上どこでも最後の0%までつながることを意味する」(孫氏)

宇宙から光ファイバー並みの速度でつながれば、飛行機や船、砂漠、災害地といった場所での通信環境が大きく変わる。コネクティッドカーも、場所を選ばず走ることが可能になる。これを、ケーブルを引くよりも大幅に低いコストで実現できるのが、OneWebの最大の利点だ。

「中国の携帯電話事業者は年間1兆円を超える設備投資を行っているが、OneWebは全世界をカバーするためにかかる設備投資と固定費が合計1,000億円程度。ものすごく効率が良い。我々はこのOneWebで通信革命をもう一度起こす」(孫氏)

現在、OneWebへはソフトバンクから出資が行われた形となっているが、SVFが正式に設立されればその最初の投資案件にする方向で進められる予定であることも明らかにした。

これまで世界になかった「集合体」を作る

最後に孫氏は、冒頭に述べた「情報革命」に改めて触れた上で、SVFを立ち上げる意義とそのコンセプトを語った。

30年以内にシンギュラリティのビッグバンが起きる

情報の世界は、パソコン同士がつながるインターネットからモバイル通信へ、そしてIoTへ発展し、クラウドに集まったビッグデータをAIが処理する方向へと進んでいる。過去30年間でチップの性能は100万倍になったが、次の30年でさらに100万倍になり、人間の知能を超える、いわゆるシンギュラリティが訪れる、というのが孫氏の常からの考えである。

「これまでのパソコンやインターネットが起こしたものを遙かに超える、シンギュラリティのビッグバンが起きる。そのチャンスを逃すのはあまりにももったいない。これを真正面から受け止めるための構えとして作るのが、SVFである。それが、私がソフトバンクに出した結論だ」(孫氏)

ここで孫氏が強調したのが、SVFが単に有望な事業に投資を行うことを目的とした組織ではない、ということだ。

「このファンドでは20~40%の株を持ち、筆頭株主として役員に入り、その起業家とともに経営や戦略を議論し、有機的結合を創っていく。単に投資したお金だけの結合ではなく、戦略を共有し、志を共有する、同志的結合。これに勝るものはないと私は信じている」(孫氏)

現在のソフトバンクからは遠い事業領域も情報革命の上に再定義される

多数の事業を抱える巨大グループも、その全てを自力で世界一にすることは叶わない。しかし、SVFは「ブランドにこだわらない、生まれにこだわらない、国籍にこだわらない」「とにかくそれぞれの分野で世界一になりそうな会社が連合してシナジーを出す」という発想から、「伸び盛りの強い結合体」となると孫氏は語った。

「世界にこれまでなかった新しい仕組みを、我々が初めて作ろうとしている」(孫氏)

シンギュラリティという海へ漕ぎ出す"海援隊"となるか。孫氏のSVFへの強い意気込みが前面に出た発表会となった。