鴻海流の経営戦略を象徴する取り組みのひとつが、2016年8月27日の組織改革で実施した「研究開発事業本部」への改称だろう。従来の研究開発本部の名称のなかに、「事業」という言葉が追加しただけの改称だが、この改称は、いわば、研究開発部門のプロフィットセンター化を意味するものだ。つまり、研究開発本部も自ら稼ぐ姿勢を盛り込んだものといえる。
戴社長は、「コーポレート部門のプロフィットセンター化を進め、最終的には、ゼロ・オーバーヘッド化を目指す。すべての組織が収益を追求する」としていたが、それを実行に移している組織のひとつが、この研究開発事業本部ということになる。
実際、研究開発事業本部は、事業化に向けていくつかの取り組みを開始している。例えば、スタートアップ企業をモノづくりの観点から支援するオープンインキュベーション活動である「SHARP IoT. make Bootcamp」を2016年11月から正式にスタート。10日間の合宿型セミナーを実施し、2人で85万円という参加費用を徴収する。また、合宿を終えた企業を対象に、量産アクセラレーションプログラムを提供。そこでも、商品開発から量産までをワンストップで支援するビジネスをスタートしている。それらのスタートアップ企業がシャープや鴻海グループの工場を使って、製品を量産することで収益につなげるという青写真も描いている。
現時点での売り上げ貢献はわずかなものだが、研究開発部門にも収益を追求するという意識が生まれ始めているのは確かだ。かつては、「研究開発部門で生まれた優れた技術が、新規ビジネスにつながらない」と同社幹部が嘆いていた時期もあったが、鴻海流の「荒技」ともいえる組織の体質改善が、同部門の意識改革につながっているようだ。
戴社長は、今年1月、社内イントラネットを通じて、「一人ひとりのスキルの向上、変革マインドの醸成、外部からの血の注入などを通じて、個の力を高めていくことが、環境変化にも動じず、持続的な成長を実現する本当に強い組織を創り出すことに繋がると考えている。だが、まずは、社員が、『自ら成長したい』、『自らが変革を担う』といった当事者意識を持つことが必要である」と、社員に呼び掛けている。こうした意識の浸透が、業績にどうつながるかが、これから注目されそうだ。
「反転攻勢」出るための取組み続々
シャープは、今後、「反転攻勢」をキーワードに、競争力強化に取り組む姿勢を示す。
具体的には、「技術への積極投資」、「グローバルでのブランド強化」、「新規事業の加速」の3点を掲げ、「技術への積極投資」では、8KやIoTなどの将来の核となる技術への開発投資を拡大。「グローバルでのブランド強化」では、欧州テレビ市場への再参入など、M&Aやアライアンスによるブランド事業の拡大、ASEAN拡大戦略の再構築に取り組むという。そして、「新規事業の加速」では、ヘルスケアおよびメディカル事業の分社化、蓄熱材料を活用した新たな事業に挑戦する「TEKION LAB」の創設などをあげた。
そして、「再び、『技術のシャープ』を確固たるものにしていく」(野村副社長)と語る。