実は曖昧さが有利に働く2ブランド戦略
一見するとこれらキャリアの施策は、メインブランドとサブブランドの使い分けにやや苦慮しているようにも見える。だが実は、その曖昧さこそが、2ブランド戦略の強みとなっているのだ。
サブブランドを展開していないNTTドコモの場合、回線を貸し出しているMVNOは別の会社となるため、両者にはサービスや戦略でも明確な区分けが存在する。それゆえ、例えばNTTドコモと取引のあるアップルのiPhoneを、資本関係のないMVNOに取り扱わせることや、安価なサービスを求めるユーザーに特定のMVNOを案内する“一体販売”のような施策を打つこともできない。
またそもそも、MVNOは別の企業であるため打ち出す戦略が、必ずしもNTTドコモの戦略とマッチしているとは限らない。例えば、多くのMVNOはコストを抑えるため実店舗がない、あるいは非常に少なく、しかも新規契約獲得を重視していることから、サポートより販売に重きを置きがちだ。
しかし低価格を求めるユーザーの中には、実店舗で安心してスマートフォンを購入し、充実したサポートを受けたいスマートフォン初心者もいる。そうしたニーズは大半のMVNOの戦略からこぼれ落ちてしまっており、他社のサブブランドに流出する要因にもなっている。それゆえNTTドコモは低価格端末「MONO」を提供するなど、メインブランドの側でMVNOからこぼれ落ちたニーズへの対応を迫られている。
だがソフトバンクやKDDIは、メインブランドだけでなくサブブランドにも大きく関与している。それゆえiPhoneのように、自社のリソースをフル活用してサブブランドで不足している要素を埋め合わせたり、一体営業によってメインブランドで抜け落ちているニーズをサブブランドで拾い上げたりするなど、相互に補完し柔軟性のある戦略をとることができるのだ。
確かに多様なニーズを満たす上では、どうしても戦略上重複する部分が出てくることがある。だがそれよりもむしろ、ユーザーニーズの“穴”を徹底して塞ぎ、ユーザーの流出を抑えられることが、2ブランド戦略のメリットとなっているわけだ。