では、島根富士通におけるPCの生産ラインの様子を見てみよう。
生産ラインの横に配置された部品倉庫では、ストアピッキングシステムを導入しており、カートにつけられたタブレットの画面に、必要となる部品のピッキングリストを表示。それに則って、部品棚から部品を調達することになる。作業者は、腕にウェアラブル型のRFIDリーダーを装着。異なる部品を取ったり、必要な部品がピッキングされなかった場合には、音や振動で警告する。これにより、正確に部品を調達し、生産ラインに供給することができ、1台ずつ異なる仕様のPCも生産できるようにしている。
生産ラインでは、作業台ひとつひとつに主要部品が置かれるが、混流生産が可能なラインでは、ノートPCを生産したあとにタブレットの組立が行われ、そのあとにまたノートPCが生産されるといったように、1台ごとに異なる製品が生産され、それにあわせて異なる部品がひとつひとつの作業台に置かれることになる。
生産ライン上に設置されているHDDコピー機は、1台ごとに異なるWindowsを、ラインと同期してインストールすることが可能であり、こうした仕組みも混流生産を支えることになる。
作業台はベルトコンベア式、10人で組み立て
作業台は、ベルトコンベアにより移動。これを約10人で組み立てることになる。今後は、5人で作業できる組立ラインの構築にも取り組む考えであり、1人の作業工数を増やすことで、需要変動にも対応しやすいラインづくりにつなげる考えだ。
また、生産ラインにおいては、電子アンドンの採用により、各工程を見える化するとともに、集計ツールと連動して、稼働分析を行ったり、工程の改善を実現。作業遅れや品質問題が発生するとベルトコンベアが停止し、その場で課題を解決する仕組みになっている。
主要部品は作業台の上に最初から置かれているが、大型部品は、作業台の後方から投入。さらに共通部品などは、前方から投入される形になっている。
作業は手作業で行われることが多いが、専用治具を使って、効率性を高めたり、作業精度を高めたりしているほか、1台ずつ異なるシール(メーカーから提供されているOSやCPUのロゴマーク)を正確な位置に貼ることができるラベル貼り付け機をはじめ、自動ネジ締め機、VST、キーボード打鍵検査機などの自動装置を導入。さらに、コンパクトブースにより、PC固有の情報を自動で取得したり、エージングを行ったりする。
ベルトコンベアで次の工程に移動。作業遅れや品質問題が発生すると停止する。前方からも共通部品などが供給される |
タブレットの組立はフレキケーブルの接続から始まる。生産しているのはQ507シリーズ |
基板の組み込みの様子 |
コンパクトブースは、生産ラインの後ろ側に設置されており、Windowsの認証などに関わる作業時間が増加していることにあわせて、一度に作業が行える台数を増やしている。
また、同社独自ともいえる防水仕様のタブレット用には、バッテリ部の防水シートを圧着する装置を導入するといったことも行われている。
組み立てが完了したノートPCやタブレットは、最終試験が行われるが、すべての試験が正常に完了しないと、銘板やラベル、保証書などが発行されない仕組みとなっている。正常に試験が終了すると、バーコードが画面に表示され、それを読みとると、次の梱包工程に進ことができる。最終試験完了後は、添付品とともに、完成品を段ボールの箱に梱包。出荷されることになる。
VST(Visual Sound Tester)。カメラとマイクで画質やスピーカー音、ラベル位置などを確認する |
キーボード打鍵検査機。マウスパッドの動作試験も行う |
最終試験工程の様子。診断ソフトウェアで判断する |
ものづくりは「匠の技術」、自前の工場が強み
こうしてみると、島根富士通は、国内最大のノートPCの生産拠点として、常に改善に取り組んでおり、それが富士通ブランドのPCの品質などにつながっている。また、柔軟なカスタマイズ対応により、細かいニーズにも応えることができるといえる。
富士通クライアントコンピューティング・齋藤邦彰社長は、「富士通は、PCビジネスを35年間やってきており、要望に応じて、オーダーメイドで製造、設計が可能。そして、顧客が望むリードタイムで提供することができる。だが、これは自前の工場があるからこそ実現できること。自前の工場がないと富士通のパソコンの強みは発揮できない」と語る。そのものづくりを「富士通ならではの匠の技術」と表現する。
島根富士通の取り組みをみると、まさに匠の技ともいえる部分を感じることができる。島根富士通の存在は、富士通がPC事業を推進する上で、我々が思う以上に重要なものとなっている。富士通が、国内生産にこだわる意味もここにある。