原子力事業の誤算による影響

東芝は、原子力事業において財務戦略で大きくつまずいた。

東芝では、昨年末に、同社傘下の米ウェスチングハウスが、2015年末に米CB&Iから買収した建設子会社のCB&Iストーン・アンド・ウェブスターにおいて、のれんおよび損失計上が、数10億ドル(数1000億円)規模で発生することを発表している。

東芝の自己資本は、2016年9月末時点で、3632億円。上期業績見通しは、3回の上方修正を行い、通期見通しでも1度の上方修正を行い、2016年度上期には1153億円の当期純利益を確保するという好調ぶりを見せている。綱川社長も、「第2四半期以降も、原子力事業を除いて、メモリを中心に、業績は計画よりも好調に推移している」と語る。

だが、円高により外貨換算調整額が悪化し、株主資本比率は、2016年3月末に比べて1.4ポイントだけ改善した7.5%に留まっている。思うように財務体質を強化できていないのが実態だ。

そして、この自己資本の水準では、米子会社ののれんおよび損失によって、一気に債務超過に陥ってしまう可能性が捨てきれない。

「現在、影響額の確定に向けた作業を進めており、2月14日に予定している第3四半期決算発表の場において、影響額および当該事象発生の原因、再発防止策について説明する」と綱川社長は影響額については明言を避けたが、一部には、7000億円規模の減損損失が計上される可能性も指摘されている。

東芝は、2016年3月末にも、債務超過に陥る可能性があったが、東芝メディカルシステムズを、キヤノンに6655億円で売却。これによって、債務超過を回避した経緯がある。だが、1年を経過して、また同じ状況に陥っているのだ。

綱川社長は、「CB&Iの損失を認識して以降、今後の推移次第では、東芝の財務状況に影響を与える可能性があり、それを最小限にするために、取り得る現実的な施策を検討している。一昨年の会計処理問題以降、財務基盤が毀損したことへの対策として、メモリ事業の分社化も選択肢のひとつとして検討していた経緯もあり、今回、この事態を受けて、その検討を加速した。CB&Iの米国子会社買収におけるのれんの減損損失が、数1000億円規模になる可能性があり、3月末までに東芝グループの財務体質を強化する必要がある。メモリ事業の分社化においては、資本対策として、外部資本の導入を視野に入れた。限られた時間のなかでは、この分割方法が自然の流れである」と説明する。

成毛副社長

東芝メディカルシステムズは、綱川社長の出身母体であり、2016年春の優良事業の売却は、将来の東芝にとっては痛手となるのは明白だろう。そして、今回、もうひとつの優良事業であるメモリ事業に外部資本を入れるということは、東芝にとって、収益事業の切り売りといえなくもない。

外部資本の相手先については、「従業員、事業を強くすることを本質として、相手先と交渉したい」と綱川社長。成毛副社長も、「外資を含めて様々な可能性はあるが、これから募って、相手を吟味したい。金額については、参加する企業の評価に依存する。可能性のひとつとしてIPOもありうる」と述べた。