東京工業大学(東工大)は12月16日、光ファイバ中の変形や温度をリアルタイムに検出するシステムを開発したと発表した。

同成果は、東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所 水野洋輔助教、中村健太郎教授、日本学術振興会林寧生特別研究員(PD)、ファナック サーボ研究所 福田英幸氏、韓国中央大学物理学科 宋光容教授らの研究グループによるもので、12月15日付けの英国科学誌「Light: Science & Applications」に掲載された。

ビルやトンネル、橋梁などインフラ構造物の状態を監視する技術として近年、光ファイバを埋め込むことで構造物内の変形や温度を分布的に測定するシステムが注目されている。しかしながら、光ファイバの両端から光を入射する必要がある従来の手法では、センサの設置に手間がかかるほか、光ファイバが1カ所でも破断すると動作が停止してしまうという課題がある。

そこで同研究グループは、光ファイバ中に存在する微弱な超音波により入射光が散乱される「ブリルアン散乱」の周波数シフトを用いたセンサに着目。特に、光ファイバの片端からのみの光入射で高分解かつ低コストにセンシングできるシステムの開発に取り組んでいる。

今回、同研究グループは、この片側からの光入射による光ファイバセンサについて、位相検波技術に基づいて超高速化を検討することにより、従来法の5000倍以上となる100kHzのサンプリングレートを達成。これまで数十秒から数分かかっていた分布測定をリアルタイムで行うことが可能となった。

光ファイバに対して部分的に熱を加えた様子。波形から2カ所で温度変化していることがわかる

光ファイバの一部に力を加えて伸ばした様子。こちらも波形から2カ所に対して力が加わっていることがわかる

光ファイバをたわませて発生させた変形の伝搬を検出し、リアルタイム動作を確認している

同技術により、光ファイバ上の歪や振動、温度変化の分布情報をリアルタイムかつ高分解能で取得できるようになるため、さまざまな構造物に対する防災・危機管理技術としての活用が期待される。水野助教によると、現在は同技術の実用化を目指し、装置の小型化や低コスト化に向け研究を進めているところだという。

超高速化の原理。従来のシステムでは、ブリルアン散乱スペクトル全体を電気スペクトルアナライザの周波数掃引機能を用いて取得したあと、ピーク値を与える周波数(BFS)を算出していた。今回、電圧制御発振器を用いて周波数掃引を行うことで高速なスペクトルの取得を実現(左)。さらに取得したスペクトルを狭帯域通過フィルタ(BPF)により正弦波に近似して排他的論理和(XOR)の論理ゲートと低域通過フィルタ(LPF)を用いて位相検波を行った(右)。これにより、BFSと1対1対応となる量を直接取得することが可能になった