(RED)はU2のボノと活動家/ジャーナリストのボビー・シュライバー氏によって2006年に組織された。その年の10月にAppleは「iPod nano (PRODUCT)RED Special Edition」を発売、同社は立ち上げから(RED)に関わってきた企業の1つである。

今年、(RED)の活動開始から10周年である。エイズの流行終結というような目標の達成こそが(RED)の節目であり、10年という数字はさほど重要ではないが、(RED)の活動が10年目を迎えてサポーターが増え続けているという事実は特筆に値する。というのも、パートナー企業の製品やサービスの売上から寄付を得るという(RED)の活動は、それまでの慈善活動の常識を覆すようなもので、慈善活動にコマーシャリズムを持ち込んだと、特に初期の頃は強く批判されることがあった。

そうした批判を覚悟でボノは(RED)を立ち上げた。当時、ボノは(RED)の活動を「フィランソロピー(慈善活動)ではなく、コマーシャルベンチャーである」と断言、その活動を「ハードコマース(hard commerce)」と表現した。「フィランソロピーは人々が手を取り合うヒッピー音楽のようなものだ。(RED)はもっとパンクやロック、ヒップホップに近い。ハードコマースと感じられるようなものになるべきだ」(Bono bets on Red to battle Aids)。(RED)は人々や社会が抱える問題を解決するという目的のために、従来の常識を覆すことも厭わない、革新的で、創造的な活動である。

音楽を売るという点で、ロックやヒップホップもコマーシャルな活動である。だが、その音楽がメッセージとなって人々に伝わり、ムーブメントを起こし、社会を変え、私たちが抱える大きな問題を解決する。音楽がコマーシャルな役割でしかなかったらムーブメントは広がらないし、優れたメッセージも伝わっていかなければ変化を起こせない。ロックやヒップホップにおいて、人々を楽しませる音楽が果たす役割は大きい。

(RED)に協力する企業が、単に製品やサービスの売上の一部を寄付するだけなら、それはただ音楽を提供していることと変わらない。(RED)への協力には、作品を作るようなクリエイティビティや姿勢が問われる。

スティーブ・ジョブズ氏がCEOだった時代のAppleは慈善活動には全く関心を示さなかった。そのAppleが(RED)をサポートした理由としてジョブズ氏とボノの友人関係が指摘されているが、(RED)の基盤にある反骨精神はAppleに根づく企業文化の一つでもある

(RED)製品に用いられる赤は、エイズに関する運動のシンボルである「赤いリボン」を思わせる。エイズに苦しむ人々への理解と支援の意思を示すシンボルであり、(RED)製品を選択することは、エイズに関して偏見を持っていない、エイズとともに生きる人々を差別しないというメッセージになる。だからこそ、(RED)製品を購入する人はサポーターとして製品の選択にこだわる。

(RED)の活動を通じたグローバルファンドへの寄付金の累計は3億6,500万ドルを超えた。その約1/3に相当する約1億2,000万ドルにAppleは貢献している。数多くの企業が(RED)に協力する中でAppleの成果が突出しているのは、初期から参加しているとか、宣伝に力を入れいるといった理由だけでは説明できない。デザインに優れ、持ち歩いてアピールしたくなる(PRODUCT)RED製品を用意しているからではないだろうか。今回、Apps for REDに参加したRovioのヴィルヘルム・タフト氏は、REDキャンペーンに対するユーザーの期待は「高い」と述べていた。ただ赤いコンテンツを用意するだけでは、ユーザーは満足しない。ユーザーを驚かせたり、楽しませるコンテンツやアイディアを用意することで、ユーザーも企業の取り組みを認めてより深く製品と関わるようになり、それが慈善活動への貢献につながる。