iPhoneを米国で作れない理由

現在アップルは、コンピュータの最上位機種であるMac Proを、米国内で生産していることをアピールしている。1台30万円を超える高性能Macを紹介するウェブサイトでは、他の製品同様カリフォルニア州でデザインされ、テキサス州、フロリダ州、イリノイ州、ケンタッキー州の革新的な技術を生かして、米国内で組み立てられたと紹介する。

Mac Proは米国内で生産されていることがウェブサイトで紹介されている

しかしそれ以外の製品は、中国での生産が基本だ。例えばiPhoneの場合、日本を含むアジアに集中するのサプライチェーンに近く、比較的安く良質かつ潤沢な労働力の確保が可能な中国での生産は、安全で信頼性の高い1台650ドルの製品を年間2億台近い生産を実現する上で見つけ出した、針の穴を通すような緻密な設計によって実現している。

その結果、アップルはスマートフォンメーカーが稼ぎ出す利益の9割以上を占め、データによっては(Androidスマートフォンメーカーの損失を加味して)100%を超える利益シェア示すものもあるほどで、「ひとり勝ち」以外にふさわしい言葉が見つからない状況を作り出すことができた。

このサプライチェーンは、CEOに就くまで、ティム・クック氏が作り上げてきた仕組みそのものだ。「サプライチェーンの鬼」と異名を取る同氏は、米国では、iPhoneを2億台、同じ価格と期間で作れないことは、(トランプ氏に直接伝えないだろうが)わかりきっていることだ。

米国経済への貢献のアピール

ティム・クック時代のアップルは、「社会的であること」に対して真摯に向き合っており、これをアピールする機会も増えている。その中に、米国や日本を含む、同社がビジネスを展開している国に対して、経済面でどんな貢献を行っているのかを示すウェブサイトを用意している。その中で、米国向けのページでは、米国内で100万人を超える雇用を創出していることをアピールしている。

2014年時点で100万人を超える雇用創出に貢献していることをアピール

同社の従業員6万6000人を加えて、アプリを中心としたiOS関連で62万7000人、アップルによる購買などによる間接的に創出された雇用が33万4000人としている。加えて、米国企業サプライヤーに対しては、年間30億ドルの購買を行っていることも明らかにしている。

日本のウェブサイトでは、日本向けに同様のアピールを行っており、その内容は全く異なる。アップルは営業活動を行っているあらゆる国で、このようなレポートを出していることからも、既に米国1国に対して責任を持っている企業ではないことは明らかだ。

そうした企業の現状と、トランプ氏が唱える保護主義的な「強いアメリカ」という主張には、大きな隔たりを感じざるを得ない。