失敗上等の割りきりが必要なIoTビジネス

ピーター・ドラッカーは、蒸気機関は鉄道を生み出したが、重要なのは鉄道というインフラがあったことが産業を大きく変えたこと、という趣旨を述べているが、IoT/ICTも、センサやワイヤレス技術を用いたさまざまなインフラの整備が進みつつある。しかし、それがゴールではなく、それが整って初めて社会が大きく変わってくることを指摘。今後、IoT/ICTもそうしたフェーズに突入し、すべての産業を大きく変化させる時代に突入していくとする一方で、「どう変わっていくかは分からない。いたるところの動きが10年以上の時をかけることでようやくわかるようになるといった程度」と、変革には相当長い時間を要する可能性があるとした。

そうした変化の時代に経営層はどうあるべきかについても森川氏は言及。「深化させるものと探索するものの二刀流のプロセスで進めていく必要がある」とし、深く掘ることで利益を上げつつ、新規ビジネスの探索を行うことで、さらなる収益拡大を目指すべきだとする。「IT分野はまだまだ探索が多く、チャレンジ要素が大きい。そのため、明確にリソースを2つに分ける必要がある。IoTの探索は、軍隊でいうところの海兵隊のようなもの。陸海空すべての能力を併せて前線を進んでいく必要があり、時には死亡することも高い割合で生じるのが海兵隊だが、IoTも同様で、IoTビジネスで失敗した部隊があっても、経営者は、よくやった、と言ってやるくらいの太っ腹さが必要になって、むしろ何度も最前線に送り出してやれるくらいが必要」と経営の考え方そのものの変化も必要と指摘した。

ブロードバンドがインフラとなり、新たなビジネスの創出につながることが期待される。そうした新しいビジネスを推進していくためには、専用のチームを作って、失敗しても失敗しても進めていく覚悟が必要であるという

IoT時代に向けて日本はどこにリソースを割くべきなのか?

最後に森川氏は、「インベンション(発明)」と「イノベーション(革新)」の捉え方に変化が訪れていることに触れ、この30年間で「イノベーションのハードルが上がってきた」とし、インベンションとイノベーションにかけるリソースの再配置が必要ではないかと提言を行った。例えば、東京工業大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)を比べると、学部生と大学院生、そして教員数はほぼ同じなのだが、総雇用職員の数は6倍程度の差があるという。「このリソース配分の差が重要な可能性がある」と森川氏ば指摘、もしMITの構成バランスがベストであると仮定したならば、東工大は教員が多いということになるという。「教授は何かを生み出す仕事であるとすると、米国は彼らをツールの1つと捉え、これを集めることで、こういったことができそうで、それによりこういったブランディングが可能となり、結果としてこういった価値が生み出せる、といった考え方が根付いている」とするほか、独政府が300億円をかけて推進しているIndustrie 4.0も、その費用の大半は技術開発ではなく、会合費や懇親会費であり、一見、何も生産しないところにリソースをつぎ込んでいくことが重要なのではないか、という感覚になってきていると説明。「人間と人間が顔を付き合わせて、どうやって行くべきか、という話を徹底的に考える場にリソースを投じたほうが良いのではないか」とし、インベンションではなく、イノベーションにより多くのリソースを配分していく必要性が、今後のIoTを活用する、という時代では重要になるのではないかとした。

東工大とMITの学生数、大学院生数、教員数、総雇用職員数の比較。総雇用職員数以外はかなり似通っているが、総雇用職員数が大きく異なっている