このようにUSB PD 2.0の仕様が確定して対応製品が登場したのはごく最近のことで、まだ利用環境が潤沢に揃っているとは言い難い。一方で、商用としてすでに市場に対応製品が出回っている技術もあり、それが今回の話題になっているQualcommの「Quick Charge」だ。2014年6月に登場したQuick Charge 2.0では、通常の(バスパワー)充電と比較して75%程度の時間で順電が完了するという。2015年9月に登場したQuick Charge 3.0では、一般的なスマートフォンのバッテリ残量を0%から80%まで35分程度で充電できると説明している。2.0と3.0のQuick Chargeはそれぞれ対応のSnapdragonを搭載したスマートフォンまたはタブレットでの利用が可能で、Class Aで5/9/12V、Class Bで最大20Vの充電が可能になっている。充電はUSBのType-A/Type-C/micoro、そして独自方式までケーブルの種類を選ばない点も特徴で、Snapdragon採用の有無がポイントとなっている。仕様や目指す領域など、USB PDとオーバーラップする部分が多いというのも特徴だ。

Quick Charge 3.0をアナウンスするQualcommのWebサイト

類似点は多いものの、両者の最大の違いは「Quick Chargeは急速充電中はデータ通信が行えない」という点で、ここがUSB PDにとって最大のアドバンテージになる。USB Type-Aコネクタの標準4ピンは「Vbus」「D-」「D+」「GND」となっており、通常はVbusの電圧を変化させて通電を行い、「D-」「D+」の2つのピンを使ってデータ通信を行っている。Quick ChargeではVbusの電圧を通常の5V以上に設定するケースがある(modify Vbus voltage beyond default levels)ほか、さらに「D-」「D+」を使って電流の制御も行う(alter sink/source roles)という独自手法(proprietary)を採用している。これはType-Cのような新型ケーブル規格を使わずとも、既存のケーブルや独自仕様のケーブルでも高速充電を可能にするための手法として開発された経緯があるためだ。詳細についてはこのあたりの解説が詳しい

Quick Chargeに関して最も注目すべき点は、そのマーケティング的優位性にある。現状、ハイエンド~ミッドレンジの製品を中心にスマートフォンやタブレットでSnapdragonを採用しているものは多く、それはそのままQuick Chargeを利用可能なことを意味する。ハイエンド製品はそのプロセッサ性能だけでなく、Quick Chargeを差別化ポイントとすることも可能で、「最初から備えている機能なら使わなければ損」と考えるのも自然だ。それがUSB PDと比較しても、現状でQuick Chargeが優位にあることにつながっている。