こんにちは! 広告写真家の熊谷直夫です。前回に引き続き、ポートレート撮影に役立つ、ちょっとしたコツを紹介しましょう。テーマは、人物を魅力に撮るための「ポーズ」の引き出し方です。

棒立ちから徐々に崩していく

まずは1枚目の写真を見てください。白樺の森で撮影した女性ポートレートです。やや引き気味の構図によって画面に霧を写し込み、白昼夢を思わせるイメージを狙ってみました。

絞り:F2.8 シャッター速度:1/40秒 感度:ISO160 WB:太陽光 焦点距離:120mm

ここで注目してほしいのは、女性のポーズです。見上げるように顔を少し上げつつ、からだを正面に向けた直立姿勢を取っています。いわば「棒立ち」の状態です。昔ながらの絵画や彫刻なら、ポーズとして成立しないかもしれません。しかし写真の場合は違います。静かで落ち着いた雰囲気や神秘的なムードをかもし出すポーズとしてむしろ効果的な場合もあります。

背筋を伸ばしてまっすぐに立つことは、二足歩行の動物である人間にとって最も自然な状態です。ポートレートのポーズを考える際は、この直立状態を基本にして、徐々にかたちを崩すことで写真に動きや変化を与えていくといいでしょう。

まっすぐに立った状態をアルファベットの「I」だとすれば、そこにひねりや傾きを加えて「C」字型や「S」字型にすることで、からだのラインが引き立ち、いっそう見栄えよく決まります。

「I」字型のポーズ。正面向き+カメラ目線は、記念写真ぽくなりがち。それを避けるには、目線を外すか、ポーズを変えたほうがいいでしょう

「C」字型のポーズ。ほんの少し首を傾けるだけで、印象が変化。アンニュイな雰囲気が出ました

「S」字型のポーズ。S字型を作ることで、動感や曲線美を強調できます

モデルに対する具体的な指示としては、片足を前に出し、斜めに向かって立つように伝えます。「からだの重心をずらしみて」「ひねりを加えてみて」「その場で少し歩いて」といったような言葉をかけながら、さまざまなバリエーションを撮るといいでしょう。

座りポーズの場合も、首を少し傾けてもらうと女性らしい雰囲気が出ます

足を「X」にクロスさせ、上を見上げることで、物思いにふけっているようなイメージになりました

注意点は、相手がプロのモデルではなく一般の人であれば、あまり細かく指示を与えると、かえってぎこちなくなる場合があることです。ポーズを「つける」のではなく、自然な動きの中から「引き出す」ように心がけて下さい。

道具を使うのも効果的です。たとえば花や本、眼鏡、グラスなど身近な小物を手に持つだけで、ポーズが自然な感じになります。椅子やベンチに座ったり、壁や木にもたれたりするなど、その場にあるものを積極的に利用し、相手の魅力を高めるポーズを引き出してみましょう。

座りポーズでも「S」字や「Z」字を作ると、からだのラインに動きが出ます

(モデル:吉川ひとみ)