リスナー数・広告市場は減少基調

各方面の権利者の同意を得てサービスインを迎えるラジコのタイムフリー聴取。“全録”を放送者側で行うという意味ではテレビの先を行く取り組みだが、これによりラジオ業界は盛り返すことができるだろうか。まずはラジオが置かれている現状を確認しておきたい。

まず、ラジオはどのくらいの人が聴いているのだろうか。ビデオリサーチが実施している「首都圏ラジオ調査結果」によると、首都圏に住む12歳から69歳までの男女のうち、2016年8月22日から28日までの1週間で、ラジオを実際に聴いた人の割合は平均すると6.5%。十数年前は9%近くあったというから、ラジオを聴いている人数が一昔前に比べ減っているのは間違いない。ちなみに、ラジオ業界では首都圏の聴取率1%を約36万人と考える。

ラジオ広告費はどうか。電通が毎年実施している調査「日本の広告費」によれば、ラジオ広告費は1991年の年間2,406億円をピークに減少を続けており、ここ数年は同1,200億円台で推移している。リスナーが減れば広告媒体としての価値が下がるので、ラジオ広告市場が縮小するのも無理はない状況だといえる。

時代に合わせて生まれ変わることで復権を狙うラジオ

タイムフリー聴取が始まると、ラジオを取り巻く環境はどのように変わるのか。まず考えられるのは、広告媒体としてのラジオの再価値化だ。ラジコはCMも含めてラジオ番組をそのまま配信している。タイムフリー聴取が始まり、ラジオ広告が今よりも多くのリスナーに届くようになれば、ラジオ広告市場の縮小基調に変化があるかもしれない。シェアラジオが普及し、新しいリスナー、特に若年層がラジオを聴き始めれば、今までラジオ広告の出稿を考えてみなかった企業も、ラジオの広告媒体としての価値を再認識するだろう。

シェアラジオが普及すれば、口コミによるラジオ聴取機会の拡大につながる(シェアラジオ特設サイトより)

番組内のCMとは別に、ラジコが独自の広告枠を設ければ、広告市場は更に拡大する可能性がある。ラジコはネット経由のラジオ放送なので、聴いている人の属性を把握することで、効果的な音声広告を配信できるかもしれないのだ。ラジコ独自の広告が実現するかどうかは不明だが、以前お伝えしたとおり、ネットの音声広告には革新的な手法が存在し、その市場も米国などでは大きく育っている。ラジコが日本の音声広告市場を拡大するドライバーになる可能性はあるだろう。

ラジコが導入するタイムフリー聴取機能は、あくまで実証実験の位置づけ。ラジコを運営するradikoと民放連ラジオ委員会は、利用者数の把握、利用者数に伴うシステム構築規模の把握(サーバーの負荷など)、ラジオ番組を構成するコンテンツがどのように利用されるかなど、さまざまな課題を抽出し、本番運用に向けた検討を進めていくという。この期間中に、権利者からさまざまな意見が出ることも予想されるが、タイムフリーにより新規リスナーを獲得できたり、昔は聴いていた休眠リスナーを呼び戻したりできれば、そのメリットに関係者も納得するはずだ。

さまざまなメディアが登場した現代において、ラジオが以前のように、大きな存在感を放つメディアに戻るのは難しいだろう。しかし、ネットとの融合を進めるなかでタイムフリー対応という大きな決断をし、時代にあったメディアへと変身を遂げることで、ラジオはリスナーとの接点を取り戻そうとしている。ラジオ番組を後から、いつでも、どこでも聴けるラジコのタイムフリー聴取は、ラジオが新しいメディアへと生まれ変わる第一歩なのかもしれない。逆にいえば、この取り組みが実証実験で終わってしまうとラジオ復権は遠のくだろう。