近年、西武鉄道の"秩父推し"がすごい。女優吉高由里子さんや作家の又吉直樹さんが出演したテレビCMをきっかけに、秩父という言葉を目にする機会が非常に増えた。今なぜ、西武鉄道は秩父を推すのか。秩父で何を成し遂げようというのか。

何かがありそうな秩父

2013年頃からだろうか。埼玉県の秩父周辺の見所を紹介したテレビCMが頻繁に放映され始めた。広告主は西武鉄道。金曜日の夜に特急レッドアロー号に乗って週末秩父を楽しもうといった趣旨のものや、秩父を歩き、名所をさりげなく紹介したテレビCMだ。

西武鉄道のテレビCMに作家の又吉直樹さんが出演。「B級うまし」とコメントしながら、秩父名物の「みそぽてと」をさりげなくアピールする内容になっている(写真提供:西武鉄道)

関東在住の人であれば、一度はこのテレビCMを目にしたことがあるのではないだろうか。埼玉県出身の筆者としては、県内の都市が推されることはあまりなく、最初は驚きだったが「まあ、西武秩父駅があるのだから、そりゃ秩父を推すよな」と軽く受け止めていた。

しかし、繰り返し目にするうちに捉え方が変わっていった。「なぜ、今、秩父なのか」という疑問だ。かつて秩父がここまでクローズアップされた記憶はなく、今になってテレビCMを活用してまで秩父を取り上げたことに違和感が残ったのだ。そしてそれは、「秩父に何かあったに違いない」という確信めいたものに変化していった。西武鉄道は秩父で何かを起こそうとしているようだ。

秩父推しを始めた理由

西武鉄道の輸送人員の推移(出典:「西武鉄道会社要覧2015」より)

西武鉄道が"秩父推し"を始めたにはワケがある。同社広報部によると、輸送人員の減少と関係するという。ここ数年の輸送人員こそ減少していないものの、実は1991年度をピークに漸減傾向が続いている。この先、少子・高齢化が進んだ場合に、輸送人員の増加は望めない。特に通勤・通学を目的とした輸送人員がメインの西武鉄道には大きな課題だ。

少子・高齢化という点では、西武鉄道だけが抱える課題ではなく、他の私鉄も同じ。しかし、他の私鉄と西武鉄道が違うのは、他の私鉄が観光地と密接に結びついてプロモーションを行えるという点だ。東武鉄道には日光があり、小田急電鉄には箱根がある。

西武鉄道はどうか。シニア層に人気の秩父札所巡りはあるが、それでは利用層が限られてしまう。幅広い層に秩父の魅力を伝え、"いざ秩父へ"という大きな流れを生み出したい、それが西武鉄道の本音だ。だからこそ今、西武鉄道は"秩父推し"を始めている。

では、テレビCM以外に何か手を打っているのだろうか。同社の取組みを調べると、秩父に限っただけでも、実はすでに様々なことに取り組んでいることがわかるのだ。