ユニクロが10月に発売する新ライン「Uniqlo U(ユニクロ ユー)」は、デザイナーのクリストフ・ルメール氏をアーティスティックディレクターに迎えて設立したパリR&Dセンターが世に問う商品群だ。究極の日常着「LifeWear」を追求する同社が、パリからの視点とルメール氏の感性を取り入れて打ち出す新たなコレクションからは、同社が掲げる“アパレルメーカー世界一”という目標の本気度が見えてくる。

ユニクロが追求する究極の日常着「LifeWear」にルメール氏のエッセンスを加えた新ライン

新しいLifeWearの姿を模索する試み

ルメール氏はラコステやエルメスといった有名ブランドでアーティスティックディレクターを歴任したデザイナー。2015年秋冬からは、2シーズンにわたりユニクロとのコラボレーション「UNIQLO AND LEMAIRE」を手掛けてきた。新ラインでは「一時の流行を超え、自分の姿を理想的に表現できる服」を目指し、デザインや生地の選定などで新たなアイデアを提案していく。

ルメール氏は外部からパリ拠点のアーティスティックディレクターに就任するのであって、ユニクロの社員になったわけではない。しかし、個人で活動している印象の強いデザイナーが、今回のように企業の拠点を率いることになるのは珍しいケースといえそうだ。

「(コラボは)違う道を歩んできた者同士が、互いの共通点を見出し、共通の目的に向かうこと。今回はスタート地点から同じ道を歩き、新しいLifeWearを発見する試みだ」。新ライン発表会に登場したユニクロ執行役員の勝田幸宏氏は、コラボから更に関係を深化させたルメール氏との取り組みをこのように語った。勝田氏によると、ルメール氏を起用したことにより、パリR&Dセンターには有能なスタッフが集結しているという。有名ブランドでの在籍経験など、様々なバックグラウンドを持つ15名がパリ拠点に集まり、デザインとフィッティングを繰り返して新ラインを作り上げた。

ルメール起用はアパレル世界一への布石?

新ラインの価格帯を見てみると、ユニクロの既存商品よりも若干高い気はするが、そこまでかけ離れた値付けはなされていない印象だ。勝田氏は価格を決めてから商品開発に取り掛かったわけではないと話すが、ルメール氏と仕事をするうえで、新商品のコンセプト設定や素材選びの段階、つまりはスタートラインから綿密に話をできる体制を構築できたことが、“ユニクロらしい”価格設定が実現した1つの要因となっていることは想像に難くない。

値段は既存商品に比べれば若干高い印象だが、“ユニクロらしい”価格設定から逸脱はしていない

外部デザイナーと近しい関係を構築することで、ユニクロは何を狙うのだろうか。見過ごせないのは、同社が掲げる「アパレルメーカー世界一」という目標だ。中期目標である売上高5兆円を達成するには、世界中で売れる服を作ることが不可欠となる。国や地域によって異なる生活(ライフスタイル)にLifeWearを提案しつつ、毎年のように移り変わるファッション業界のトレンドにもキャッチアップしていくとすれば、ユニクロは外部の才能を取り込み、デザイン能力やトレンド対応力を向上させていく必要がある。