米NVIDIAは15日(現地時間)、"Pascal"アーキテクチャをベースとしたコンシューマ向けGPU「GeForce GTX 10シリーズ」をノートPC向けに提供すると発表した。ASUSや、DELL(Alienware)、MSI、Lenovo、Razerなどから搭載製品が投入される予定だという。今回の発表に先駆けて、NVIDIAは記者説明会を開催。ノートPC向けGeForceのプロダクトマネージャーのGaurav Agarwal氏が詳細を解説した。
ノートPC向けGPUとデスクトップ向けGPUの差がなくなる
NVIDIAは、2015年9月にデスクトップPC向けGPUである「GeForce GTX 980」をノートPC向けに供給することを発表。ノートPCでのデスクトップ向けGPU搭載は驚きを持って迎えられた。GeForce GTX 10シリーズで、NVIDIAはこの取り組みをさらに進める。
「GeForce GTX 980」では、ターゲットはあくまでもエンスージアスト(熱狂的なユーザー)という位置付けだったが、今回は"Pascal"世代のハイエンド「GeForce GTX 1080」だけではなく「GeForce GTX 1070」と「GeForce GTX 1060」といったミドルレンジのGPUもノートPC向けとして提供する。
以下にスペックをまとめる。デスクトップ向けGPUと比べて動作クロックが少し抑えられているところもあるが、CUDAコアの数やメモリ容量、メモリインタフェースなどは基本的には同じだ。
製品名 | GeForce GTX 1080 (デスクトップPC版) |
GeForce GTX 1080 (ノートPC版) |
GeForce GTX 1070 (デスクトップPC版) |
GeForce GTX 1070 (ノートPC版) |
GeForce GTX 1060 (デスクトップPC版) |
GeForce GTX 1060 (ノートPC版) |
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CUDAコア数 | 2,560基 | 2,560基 | 1,920基 | 2,048基 | 1,280基 | 1,280基 |
ベースクロック | 1,607MHz | 1,556MHz | 1,506MHz | 1,442MHz | 1,506MHz | 1,404MHz |
ブーストクロック | 1,733MHz | 1,733MHz | 1,683MHz | 1,645MHz | 1,708MHz | 1,670MHz |
メモリ容量 | 8GB | 8GB | 8GB | 8GB | 6GB | 6GB |
メモリタイプ | GDDR5X | GDDR5X | GDDR5 | GDDR5 | GDDR5 | GDDR5 |
メモリインタフェース | 256bit | 256bit | 256bit | 256bit | 192bit | 192bit |
メモリスピード | 10Gbps | 10Gbps | 8Gbps | 88Gbps | 8Gbps | 88Gbps |
メモリ帯域幅 | 320GB/sec | 320GB/sec | 256GB/sec | 256GB/sec | 192GB/sec | 192GB/sec |
唯一「GeForce GTX 1070」だけは、CUDAコアの数が異なり、デスクトップPC版では1,920基だが、ノートPC版では2,048基と128基増加している。また、一方、ベースクロックに加え、ブーストクロックも抑えられており、Agarwal氏によると「パフォーマンスは大きく変わらない」という。
なお、Pascal世代のGPUでは、128基のCUDAコアで1基のStreaming Multiprocessor(SM)を、さらに5基のSMでGraphics Processing Cluster(GPC)を構成するのだが、2,048基のCUDAコアではSMが16基となり、5で割り切れない。この点をAgarwal氏に確認すると、ノートPC版GeForce GTX 1070では、4基のSMでGPCを構成、つまりGPCの数は4基になるという。
消費電力について具体的な数字は明かさなかったが、動作クロックが抑えられていることから、デスクトップ版よりも低くなるだろうとのことだった。このほか、DirectX 12やVulkanのサポート、VRなどで高い効果を発揮する「Simultaneous Multi-Projection」といった機能も「すべて利用できる」(Agarwal氏)としている。
薄型軽量ノートPCにもデスクトップクラスのGPUが搭載
デスクトップ版「GeForce GTX 980」のときは、ASUSの水冷ゲーミングノートPC「ROG GX700」とまではいかなくとも、かなり筐体が大きな製品が多かったが、Pascal世代の高い電力効率に加えて、「GeForce GTX 1070」や「GeForce GTX 1060」の投入によって、フォームファクタにも幅ができた。例えば、VRに対応したパワフルなPCだが、厚さ18mm、重量約1.8kgの薄型軽量モデルといった製品も可能となる。
VR対応なのに薄型軽量といったモデルも登場する。「GeForce GTX 1080」をはじめとして「GeForce GTX 1070」も「GeForce GTX 1060」も"VR Ready"なので、これらを搭載したノートPCはすべて"VR Ready"ということになる |
また、動作クロックが抑えられているとはいえ、デスクトップ向けと同じチップが採用されているため、その性能も折り紙つきだ。具体的なベンチマークテストの結果は後述するが、NVIDIAによると「GeForce GTX 1080」では、画質設定「EPIC」で1080p(フルHD)のOverwatchを120fps以上のフレームレートでプレイできるという。さらに4K解像度でもAAAタイトルのゲームを快適にプレイできるとしている。
そして高いオーバークロック耐性も備える。デスクトップ版と同様に電源供給用のデュアルFETのほか、マルチパワーコントローラといった高品質のコンポーネントの搭載に加えて、回路の改良などの工夫ににより、最大300MHzまでブーストクロックを引き上げることができる。また、GeForce GTX 10シリーズを搭載したノートPCは、グラフィックスカードと同様にメーカー側で独自にオーバークロックした状態で出荷できる。
「BatteryBoost」や「G-SYNC」などの既存機能も強化
NVIDIAがノートPC向けに提供する機能も強化されている。まずはよりバッテリ駆動中のゲームプレイ時間を延ばす「BatteryBoost」だが、従来はCPU側の処理が遅れるなどの原因によって、ゲーム中のフレームレートが大きく変動していた。
これが電力消費に繋がるとして、新たな「BatteryBoost」ではアルゴリズムを見直し、できるだけフレームレートを一定に保つことで電力消費を抑え、Maxwell世代のノート向けGPUと比べて30%以上、バッテリ駆動時間を延ばすことができる。デフォルトの状態では30fpsをターゲットとしているが、30fpsから60fpsの間で任意に目指すフレームレートを設定できる。
従来の「BatteryBoost」はフレームレートの変動が大きく、これが電力消費の増加に繋がっていたという。新「BatteryBoost」ではフレームレートの変動を抑えることにより、電力消費を低減する |
また、カク付きやティアリングを解消するディスプレイ表示技術「G-SYNC」では、従来は最大75Hzのリフレッシュレートまでのところ、Pascal世代のGPUでは120Hzまで対応する。さらに解像度も1080pに加えて、新たに1440p(2,560×1,440ドット)のサポートも追加された。
実際のパフォーマンスをベンチマークテストで検証
説明会の会場にはGeForce GTX 10シリーズを搭載したゲーミングノートPCを多数展示。実際に触れて体験することができた。このうち、GeForce GTX 1080を搭載したCLEVO製の「P7750M」でベンチマークテストを実施したので、その結果を紹介したい。ただし、Agarwal氏によると展示機にインストールされたドライバは「調整中」とのことで、テストの結果はあくまで参考値として考えてほしい。
CLEVO製「P7750M」。CPUはIntel Core i7-6700、メモリは16GB、グラフィックスはGeForce GTX 1080とデスクトップPCがそのままノートPCになったもの。筐体は従来モデルから変化していない。冷却は180Wまで対応するとのことだ |
まずは3DMarkから。FireStrike、FireStrike Extreme、FireStrike Ultra、Time Spyの書くプリセットでテストを2回実行し、高いスコアを下記に示す。ただし、ドライバが調整中とあってかTime Spyでは著しく表示が崩れてしまった。
GeForce GTX 1080のレビューと比べると、5%程度の差に収まっており、かなりデスクトップPCに近い結果となっていることが分かる。
さらにオーバークロックした状態でもテストを実行した。最初はNVIDIAの主張どおり、300MHzのオーバークロックに挑戦したが、システムが落ちてしまったため、150MHzのオーバークロックで試した。Graphicsのスコアで見ると10%程度向上している。前述の通り、GeForce GTX 10シリーズを搭載したノートPCでは、メーカー側が独自にオーバークロックしたモデルも投入できるため、これまで以上に各製品でパフォーマンスに幅がでる可能性がある。
ゲームタイトルを使ったベンチマークテストとして、「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」とRise of the Tomb Raiderを実行した。こちらも定格とオーバークロックでそれぞれテストしている。この2つでは定格とOCで差が出なかったが、そもそもの絶対性能の高さは伺うことができる。
さて、Maxwell世代では限定的だったノートPCへのデスクトップ向けGPUの提供だが、Pascal世代ではターゲットとするレンジをさらに拡大。性能に加えて、フォームファクタや採用される製品数いった面でも大きな飛躍となった。今後、各メーカーが搭載PCを続々と発表するものとみられるが、どんな製品が投入されるか注目したいところだ。
会場に展示されていた最新ノートPCをチェック
このほか、会場に展示されていたノートPCやデモの様子を写真でお届けしたい。