何がARM買収を決断させたか

ソフトバンクの国内事業では、設備投資がピークを過ぎた。このことで毎年5,000億円のフリーキャッシュフロー(会社の稼ぎから事業運営に必要な資金を差し引いた余剰資金)が得られるようになった。累計契約数も堅調に推移しており、SoftBank光の契約者も増え続けている。

国内事業では設備投資がピークを過ぎたことで、毎年5,000億円のフリーキャッシュフローが得られるようになった

このほかSprintの業績が著しく改善してきたことも、ARM買収の決断を後押ししたようだ。いまやSprintの取得原価は2.01兆円。ソフトバンクがSprintの買収に使った1.95兆円を上回る価値が生まれており、米国市場では株価も大幅に増加しているという。「アメリカの投資家の皆さんにもご評価いただけるようになった。将棋の”歩”は裏返したら、金に化ける。Sprintがこれから稼ぎ頭になる」と孫社長。

Sprintの業績が著しく改善。いまやSprintの取得原価は2.01兆円となった

孫社長は「ARM買収の意思決定ができたのは、ニケシュが辞めたからですか、と聞く人もいる。そうではない。国内の通信事業が好調で、もともと手元には2.5兆円の資金があった。これに加えてアリババ株の一部現金化、ガンホー、スーパーセルの売却によって新たに2兆円の現金が入る目処が立った。さらにSprintのV字回復の道筋が立った」と説明。そして「目の前にはIoTの大きなパラダイムシフトが迫っている。このタイミングで我々が狙わなくてどうする」とまくし立て、今回の買収の正当性を自ら主張した。

買収総額は240億ポンド(約3.3兆円)。今回のARM買収に際しては、英国のEU離脱問題を受けてポンドが値を下げた幸運も重なった

孫社長は「ARMの会長にプロポーズして、2週間で買収の合意までこぎつけた。日本の経済史の中でも最大規模のM&Aが、世界でも例がない速さで決着した。5年後、10年後に”ソフトバンクは何をする会社ですか”と問われたら、ARMの会社と答えるようになる。ARMはソフトバンクの中核事業になる」と熱を入れて説明した。心はすでにドーバー海峡を越えている様だ。

ARMのビジネス構造、マーケットシェアについて紹介する孫社長

そのARMの2015年度の実績だが、営業利益率は51.6%、税引き後利益は578億円となっている。孫社長は、プレゼンの終盤で「ARM社において、この先の4~5年間は目先の利益を少し減らしてでも、マーケットシェアの拡大、技術者の増加、研究開発費の増加などに先行投資をしようと語りかけた。すると、非常に強い共感を得られた。是非そうしたい、そうありたいと言ってもらった」というエピソードも明かしている。

ARMの2015年度の実績。営業利益率は51.6%、税引き後利益率は578億円と順調に推移している