周辺産業も習熟曲線に沿って製品コストを下げてきた
「半導体産業は、習熟曲線に乗ってトランジスタのコストを下げてきたが(図2)、半導体デバイス産業を支える周辺産業についても詳細に調べたところ、この習熟曲線による価格低減と同じ割合で、周辺産業のそれぞれの製品のコストが低減してきたことが分かった」とRhines氏は話す。また、「半導体製造装置業界(前工程、後工程とも)、半導体検査装置業界、リソグラフィおよびマスク製造業界、EDA業界は、ことごとく半導体デバイスメーカーがトランジスタ当たりの価格低減をしてきたのとおなじ割合で、トランジスタ当たりの自社製品価格を下げてきた(図4)。EDA業界の売上高は、いつも半導体業界の売上高の2%に相当する額だった(図5)」と、自社が属するEDA業界を例にあげ、半導体業界と同じ流れで製品コストの低減が進んできたことを紹介した。
プロセスコスト高で習熟曲線も終焉か?
半導体デバイスの微細化が28nmから20nmへ移行するに際して、多重露光や3次元トランジスタFinFET構造などのコスト高のプロセスを導入しなければならなくなった。今後はEUVリソグラフィも採用しなければならなくなり、トランジスタ当たりのコストはもはや低減できなくなり、習熟曲線にも中断が見られるのではないかと思われる状況が発生している。
はたして習熟曲線は中断することなく延長できるのだろうか?。こうした問いに対し同氏は、「習熟曲線は、メモリトランジスタかロジックトランジスタか問題にしていない。1990年のメモリトランジスタとロジックトランジスタの割合は半々だったが、いまは99.7%がメモリトランジスタだ。これは、NAND型フラッシュメモリが急成長しているためだ。このため半導体習熟曲線は、フラッシュメモリのカーブになりつつあり、習熟曲線の傾きは、驚くべきことに、過去40年と同じなのだ」と、現在も過去からの延長線上にあることを強調する。
習熟曲線は今後も継続するか?
さらに、今も成り立っているトランジスタ当たりのコストは将来に向けてさらに低減するのだろうか?、という問いに対し「答えはイエスだ。メモリ消費量が飛躍的に増えるからだ。例えばYoutubeはユーザーが毎分400時間分のビデオをアップロードし続けている。1日あたり1ぺタ(1015バイトという天文学的な量だ」とする一方、「データセンターでのソリッドステート・ストレージの要求は年率55%で成長している。今話題の自動運転車への動きは、可視デ―タの捕獲、蓄積、処理に強く依存する。車載メモリ市場は年率26%(2013-2018年)で成長している。2020年までに、延べ3兆時間、860ぺタバイトの監視カメラのデータが毎日生成するようになると予想されている。このように、可視データの蓄積のためにメモリ需要の爆発的増加により、プロセスコスト高騰でムーアの法則が終焉後も、習熟曲線は今後少なくとも10~20年は成立するだろう」との将来予測を披露した。
最後にRhines氏は、「将来、ノイマン型コンピュータに代わって非ノイマン型コンピュータが、人間の脳の可視パターン認識と超微小消費電力を模すようにするには、メモリもプロセッサもはるかに進歩しなければならず、トランジスタはもっとはるかに大量に必要になるだろう」と述べた。同氏は、来るべき人工知能(スマートマシン)時代にも思いをはせ、トランジスタの累積生産量がさらに爆発的に増えて、将来にわたり習熟曲線が成立し続けるとの見解を示した。