5月下旬にベルギーのブリュッセルで開催されたimecの研究計画発表会「imec Technology Forum (ITF) Brussels2016」で、世界中の半導体関連企業のトップが招待講演を行い、半導体産業の将来に向けた思いを述べた。本稿では世界規模の代表的なEDAベンダである米国Mentor Graphicsの創業者であり会長兼CEOのWalley Rhines(ウォーリー・ラインズ)氏による「ムーアの法則が崩壊したとしても、半導体のコスト低減をさらに20年続けるために」と題する招待講演を紹介したい。Rhines氏は、EDA業界の枠にとらわれず、半導体産業界の健全な発展を願って、毎年、さまざまな角度から警鐘を鳴らす提言を続けている。
IoTが本格化すると、スマートセンサ/アクチュエータやデジタル情報処理のために大量の半導体チップが必要となり、半導体の市場が急拡大することが期待されている。しかし、微細化デザインルール、超低消費電力ミクスドシグナル設計、さまざまなパッケージングなどによりますます複雑になり、いままで半導体産業を発展させてきたと源泉となっていた「トランジスタ当たりのコスト低減」に脅威を与えている。Rhines氏は、半導体設計・製造コストを分析し、半導体設計者は今後10年間どんなことに取り組むべきか、半導体の将来にどんな可能性があるか明らかにした。
半導体の習熟曲線は過去数十年にわたり有効だった
「半導体の習熟曲線(ラ―二ングカ―ブ:Learning Curve)はいままで考案されたカーブの中で最も完全に近いカーブだ」とRheinsは語る。習熟曲線は学習曲線ともよばれ、もともとは学習の進行過程を数量的にグラフに示したもので、普通は横軸に学習時間や試行回数などをとり、縦軸に反応時間(例えば正答が得られるまでの時間)、誤反応数(例えば、一定時間に得られた解答のうち誤答数)などをとると、指数関数的な下降曲線を示す。これを産業界にあてはめて、横軸をある製品の累積生産量、縦軸を単位当たりのコスト(売上高)とすると同じような曲線が描かれる。半導体産業では、横軸をトランジスタの累積生産量、縦軸はトランジスタ1個当たりのコスト(売上高)をとって描いた曲線が、今回の講演で採りあげる習熟曲線である。
「インフレ(毎年の物価上昇)の影響を補正すれば、このカーブは過去数十年にわたり適用されてきた(図2)。トランジスタの累積生産量が増大につれて、トランジスタ当たりのコストは継続的に毎年33%ずつ低減して今日にいたっている」
図2 半導体の習熟曲線:トランジスタの累積生産量の増大につれて、トランジスタ当たりのコストは継続的に毎年33%ずつ低減してきた。横軸:トランジスタ累積生産量、縦軸:トランジスタ当たりの価格(ドル)、習熟曲線は、時代の変化によるインフレーションの影響を補正してある (出所:Mentor Graphics) |
ムーアの習熟曲線は今後も有効
新市場創造型商品(MIP:Market Initiating Product)一台当たりの売上高の時代変遷を図3に示す。具体的には、真空管(1942-2955年)、ディスクリート・トランジスタ(1955-1966年)、および集積回路(1966年-今日)の価格を、インフレによる価格上昇を補正してプロットした対数グラフで、直線状に低減している。Rhines氏は「今後、ムーアの法則が終焉した後も、この直線は維持できるだろう。今後(2025年以降)の新市場創造型商品がなにかは未だ明確ではないが、3次元集積回路、バイオスイッチ、スピントロニクスなどかもしれない」と予測している。