続いて、5人のパネリストがドイツの「インダストリー4.0」や米国の「インダストリアルインターネット」といった新しい技術の動向についてのディスカッションへと移った。

インダストリー4.0の目的は、製造業に進出する国に対するドイツのヘゲモニーの拡大、多くの中小企業のデジタル化、そして生産や開発のプロセスそのもののトランスフォームにある。

一方、インダストリアルインターネットはアプローチが少し異なり、装置から集まる沢山のデータをビッグデータ解析し、その製品の寿命や燃費、効率性を高めていくことで、製造業の上に新しいメンテナンスのようなサービス業を培っていくというアプローチで進めている。日本の場合も「企業内部だけ」ではこうしたことは以前から行われているものの、業界全体でこうしたことが実現できているわけではないのが現状だという。

このままでは「下請けに甘んじてしまうのではないか」という危機感を持つという山名氏

山名氏は、「IoTやビッグデータ解析、ロボティクス、センシングといった新たな技術を取り込んでつながるものづくり、あるいは自立的なものづくりに大きくシフトするのがドイツや米国のものづくりの流れと理解している」と語る。"もの"と"もの"をつなげることで、あらゆるデータ解析を行うプラットフォームの標準化が世界的に起こっており、日本にいくら卓越したものづくりの技術があったとしても、価値そのものが変化する中において、このままでは「下請けに甘んじることになるのではないか」という危機感を持っているとし、エコシステムのようなものを構築し、実践して答えを出し、顧客企業とともに考えながら進めていくというやり方が、今、日本の製造業に求められていると述べた。

平手氏は、「デジタル・ツイン、あるいはサイバーフィジカルシステムの領域では"早い者勝ち"というのは言い過ぎかも知れないが、どういう形で情報を管理・整理するのかを定義したものが覇権をとるという状態になっているおり、国家レベルで話を進める必要がある」と述べた。

またパン氏は、「インダストリー4.0あるいはIoTが世界中で伸びてきているのは非常に喜ばしく思っている」とした上で、「私どものような小さなマーケットでは、そうしたものが、ソフトウェアエンジニアが競争力を確保することを考えるためにプラスになる」と語ったほか、戦略的な考え方として、これまでは”虫の目”で居たところから”鳥の目”になれるという意味で、こうした流れはプラスになる」と述べた。

今回モデレーターを努めた、日本経済新聞 編集委員の関口和一氏

パン氏へは会場からも「ものづくりの効率化、開発スピードが上がったことによって、新しいフィールドからの委託やオーダーが入ってきているのか?」といった質問があり、これについては「デジタルを駆使してきたことで、通常ではなかなか到達し得ないような顧客を含めてコンタクトを頂いています」とし、「稼働率を低めに押さえていつでも顧客からの依頼を受けられる体制を整えながら利益率を出している。それはデジタルとソフトウェアで効率を高めているからです」と回答した。

さらに古河氏は、「インダストリー4.0の話をするとき、センサなどのすでに決まっているものをいかに効率的に作るかという議論が多いが、製造技術を生かした製品開発として何をどう作るのか、決めていないものをどう決めるのかという点に対しては苦戦し、生産性そのものが宝の持ち腐れになっている」と現在の課題を明かすとともに、「IoTを製品の効率化だけではなく、いかにして設計へとフィードバックするかが必要だ」と述べた。

また古河氏は、「TVドラマ"下町ロケット"のような中小企業の匠の世界も本当にデジタル化できるのか?」という会場からの質問に対して、古河氏は「デジタル化できるものとできないものがある」とし、「手工業のようなものはできないが、産業化するための"この人でしかできない"という名人芸でない形では多くの企業ではできると思っている」と述べた。

5名の経営者の話に耳を傾ける聴講者たち

このほかレグー氏は、「技術という観点において、"デジタル"は別に新しいものではなく、日本でも設計やデザイン、オートメーション化などで使われてきた。では、何が新しいのかというと、それらの情報をどのように接続し、バリューチェーンを行うかということ」と前置きした上で、「デジタルをエンジニアリングや製品、ものづくりなどに生かしているのか、それが製品のパフォーマンスにつながっているのか、サービスの変革が行われているかが重要である」と話す。