AMDは、開発コードネーム"Bristol Ridge"で知られる第7世代AMD AシリーズAPU(Accelerated Processing Unit)を正式に発表するともに、次世代GPU"Polaris"ベースの「Radeon RX 480」や次世代CPU"Summit Ridge"といった同社の最新製品を一気に公開した。

第7世代APUを発表するJim Anderson氏(SVP and GM, Computing and Graphics)

同APUは従来の"Carrizo"(カリッゾ)コアの設計はそのままに、半導体製造プロセスの最適化や、新しいクロック制御技術などの適応により、実パフォーマンスを向上させた製品となる。

Bristol Ridgeは、従来のCarrizoと半導体設計を完全に共有する

また、第6世代APUでは「メモリ価格が高すぎ、実用性に欠ける」という理由から無効にされていたDDR4メモリのサポートが追加されているのも特徴だ。具体的なラインナップは以下の通り。

製品名 FX 9830P FX 9800P A12-9730P A12-9700P
CPUコア数 4 4 4 4
CPUベースクロック 3.0GHz 2.7GHz 2.8GHz 2.5GHz
CPUブーストクロック 3.7GHz 3.6GHz 3.5GHz 3.4GHz
L2キャッシュ 2MB 2MB 2MB 2MB
メモリ DDR4-2400 DDR4-1866 DDR4-2400 DDR4-1866
PCI Express 3.0 x8 x8 x8 x8
グラフィックスコア Radeon R5 Radeon R5 Radeon R5 Radeon R5
Compute Unit 8 8 6 6
Radeonコア数 512 512 384 384
GPU動作クロック(最大) 900MHz 758MHz 900MHz 758MHz
TDP 35W 15W 35W 15W
cTDP 24W-45W 12W-15W 24W-45W 12W-15W
製品名 A10-9360P A10-9300P A9-9410 A6-9210 E2-9010
CPUコア数 4 4 4 2 2
CPUベースクロック 2.6GHz 2.4GHz 2.9GHz 2.4GHz 2GHz
CPUブーストクロック 3.3GHz 3.3GHz 3.5GHz 2.8GHz 2.2GHz
L2キャッシュ 2MB 2MB 2MB 2MB 1MB
メモリ DDR4-2400 DDR4-1866 DDR4-1866 DDR4-2133 DDR4-1866
PCI Express 3.0 x8 x8 x8 x8 x8
グラフィックスコア Radeon R5 Radeon R5 Radeon R5 Radeon R4 Radeon R2
Compute Unit 6 6 3 3 2
Radeonコア数 384 384 192 192 128
GPU動作クロック(最大) 800MHz 720MHz 800MHz 600MHz 600MHz
TDP 35W 15W 15W 15W 15W
cTDP 24W-45W 12W-15W 12W-15W 10W-15W 10W-15W

前世代と設計が同じなのにパフォーマンスが向上した理由

AMDでクライアント製品の技術開発を担当するJoe Macri氏(Vice President and CTO, AMD Client Products)は、「Bristol Ridgeでは、現行のCarrizoと比べてCPU性能で20%、グラフィックス性能で最大37%の高性能化を実現している」とアピール。2世代前のKaveriと比べると、最大50%もの性能向上を果たしていると言う。

Bristol Ridgeの改良点を説明するJoe Macri氏

現行のCarrizoと比べてCPU性能で20%の性能向上

グラフィックス性能は、同じTDPのCarrizo世代に比べて最大37%向上、マルチメディア性能は最大12%向上すると言う

さらに2世代前のKaveriと比べると、50%のコンピューティング性能向上を果たすと言う

具体的には一般的なアプリケーションの処理性能で、AMD FX 9800Pの性能はKaveri世代のFX-7500に比べて50%以上向上していると言う

具体的には一般的なアプリケーションの処理性能で、AMD FX 9800Pの性能はKaveri世代のFX-7500に比べて50%以上向上していると言う

これは、競合であるIntelのノートPC向けプロセッサ「Core i7-6500U」と比較しても50%ほど上回る性能で、League of Legendsのようなそれほど大きな負荷ではないゲームもプレイできるという。そしてミドルレンジのA9クラスでは、GPUコアを強化し、399ドル以下のPC市場に大きなインパクトを与えるとしている。

第7世代APUの3Dパフォーマンスは、Core i7-6500Uよりも50%上であり、League of Legendsのようなタイトルであれば、最大パフォーマンスでプレイできるとアピール

第7世代のAMD A9は、GPUコアを強化し、399ドル以下のPC市場に大幅なパフォーマンスアップをもたらすとアピール

これまでの製品から大幅な性能向上を実現したBristol Ridgeだが、前述の通り、半導体設計は現行のCarrizoと同じだ。AMDはいかにして、同じ半導体設計で性能を上げることができたのだろうか?

一般的に、半導体プロセス技術が成熟すると、同じ電圧でも動作周波数を引き上げることができるようになる。同様に、より高い電圧で駆動できるチップも採れるようになるため、半導体設計を最適化すれば、より高性能なチップを作れるようになる。

半導体プロセスが成熟することで、電力あたりの動作周波数は向上する。CZ ProcessはCarrizo、BR ProcessはBristol Ridgeを示す

しかし、AMDは半導体設計はまったく変えずに、高性能化を図るべく、動作周波数と電圧の組み合わせと、そのステップを設定するDVFS(Dynamic Voltage and Frequency Scaling)を改良することで、より高電圧・高クロックで動作するようにした。

さらに、Bristol Ridgeでは、動作周波数切り換えのベースとなるPステイトを10段階に拡張し、OSがサポートする8段階のPステイトに割り当てることで、より高い動作周波数を実現する。この際、AMDはAPU内部の周波数センサーを用いることで、CPUコアのクロックをどれだけ低い電圧で駆動できるかを検出し、より低消費電力で動作させられるAVFS(Adaptive Voltage & Frequency Scaling)を採用している。

Bristol Ridgeでは、新たに2つのPステイトをシャドーPステイトとして追加し、より高クロックで動作するように変更

まt、より高性能なチップを採れるよう、APUのライフタイムを満たしつつ最大限の動作クロックを実現すべく、半導体のエラー累積時間(Cumulative Failures in Time:Total)を動的に監視し、APUを使い続けてもより高速なブーストクロックで動作できるようにするReliability Tracker(リライアビリティ・トラッカー)と呼ぶ制御を追加している。

これにより、従来は製品寿命を満たすために、消極的なブーストクロック設定しかできなかったところを、より高クロックなブーストクロックで動作させることができるようになる。

より高速なブーストクロックを実現すべく、Reliability Trackerと呼ぶ動的なエラー検出機能による制御も追加

具体的にBristolRidgeCarrizoを比べてみると、新たに追加されたTDP 35W版はもとより、同じTDP 15W版でもCPUベースクロック、ブーストクロックともに大幅に向上しているのが分かる。

製品名 FX 9830P FX 9800P FX 8800P
開発コードネーム Bristol Ridge Bristol Ridge Carrizo
製造プロセス 28nm 28nm 28nm
CPUコア Excavator Excavator Excavator
CPUコア数 4 4 4
CPUベースクロック 3.0GHz 2.7GHz 2.1GHz
CPUブーストクロック 3.7GHz 3.6GHz 3.4GHz
L2キャッシュ 2MB 2MB 2MB
メモリ DDR4-2400 DDR4-1866 DDR3-2133
グラフィックスコア Radeon R5 Radeon R5 Radeon R5
Compute Unit 8 8 8
Radeonコア数 512 512 512
GPU動作クロック(最大) 900MHz 758MHz 800MHz
TDP 35W 15W 15W

また、Bristol Ridgeでは、ノートPCやタブレットなどのモバイル機器で導入されている本体の表面温度(スキン温度)を基にした動作クロック制御でも、よりアグレッシブな手法を取る。

一般的なモバイル機器では、手や肌に触れる部分の温度が高くなり、低温ヤケドなどが生じないよう、CPUチップの温度が上がりすぎないように電圧や周波数を制御している。しかし、PCがアイドル状態から復帰したときや、低負荷動作が続いていた場合は、スキン温度のリミットに達するまでに余裕がある。

そこで、Bristol Ridgeでは、こうした状況下では定格よりさらに高い電力を供給することで、瞬間的なパフォーマンスアップを図るSTAPM(Skin Temperature Aware Power Management)と呼ぶ制御も追加している。Macri氏は「STAPMによるブーストは、ms単位のごく短い間だが、アプリケーションの起動の高速化などに威力を発揮する」と説明する。

スキン温度まで余裕がある場合は、電力を通常より高くしてブースト動作をさせることで、アプリの起動などを高速化し、体感速度を向上させる