英国、米国、台湾、シンガポールに製造拠点を持つ化合物半導体およびシリコン・エピタキシャルウェハ・サプライヤである英IQEは5月16日(英国時間)、ベルギーの独立系半導体研究機関であるimecとGaN-on-Si技術に関して戦略的協業契約を結んだと発表した。

GaNを用いると、オン抵抗がシリコンよりも小さい、高耐圧高速スイッチング・パワーデバイスを実現できるため、GaNは今後のパワーエレクトロニクスにとって将来有望な半導体材料として大いに期待されている。

今回の研究協業契約を結ぶ以前に、imecが所有するGaNダイオード構造のIPとIQEの高耐圧GaN-on-Siエピタキシャル・ウェハを用いてimecの200mmウェハプロセス用クリーンルーム(図2)で試作したGaNパワーダイオードの測定結果(後述)が非常に良好で、将来さらに向上する可能性があるため、今回の協業契約に至った。

図1 IQE本社の外観 (出所IQE)

IQEは今後、imecのGaN-0n-Si Industrial Affiliation Program(産業連携プログラム)に加入し、ほかのIDM、装置材料メーカー、ファブレス/デザインハウス、実装メーカーとともに、imecの24時間稼働200mmクリーンルーム(図2)内の200mm CMOS完全互換GaNプロセスラインを使ってGaN-on-Si 200mmエピタキシャル・エンハンスメント・モード・デバイス技術を研究開発する。具体的には、エピ層の品質を向上させるための基板開発、集積化するための素子分離技術、次世代縦型デバイス開発などだ。

図2 imecキャンパス全景。化合物半導体や太陽電池ウェハ・プロセス用の200mmウェハ処理用研究開発クリーンルーム棟は右側中央の大きな建物。その奥にあるのが300mmクリーンルーム棟。さらにその奥に青色のimecタワー(新本部ビル)が見える。左下の建物群は旧本部・研究者居室ビル (出所:imec)

200mm GaN-on-Siウェハで耐圧650Vを実現

今回の契約を結び以前の初期的共同研究で、imecはIQEと一緒にGaNパワーデバイスを試作した。そこではimec独自のGated Edge Teminated(GET)ショットキーダイオードデバイス構造をIQEの200mmシリコン基板上の高耐圧GaNバッファ層へ適用した。

パワーダイオード試作の難題は、低リーク電流と低タ―ンオン電圧を同時に実現することだが、GETダイオードデバイス構造とIQEウェハの低バッファ層リーク電流のおかげで、imecの200mmシリコンパイロットラインで試作した大面積GaNパワーダイオード(10mm)は周囲温度25℃~150℃の範囲で650Vまで印加しても低リーク電流を示し、タ―ンオン電圧も低かった(図3)。今回の協業契約により、さらに性能を向上させる検討を行う。

図3 GaN-on-Siダイオードの順方向電流と逆方向電流(測定温度:150℃)。ダイオードの陽極は10nm幅、陽極陰極間距離は10μm (出所:IQE/imec)