NVIDIAの自動運転

基調講演の最後は自動運転を取りあげた。自動運転の分野では、先進的に自動運転を研究してきたAudi、BMW、Daimlerが実用化に備えて高精度地図の作成を行っているHEREを買収し、トヨタ自動車は米国に研究所を作った。UberやBaiduも自動運転に参入してきた。というような象徴的な出来事が起こっている。

Audiなどは自動運転用の高精度地図を作るHEREを買収、トヨタ自動車は米国に研究所を設立、UberやBaiduも自動運転開発に参戦

自動運転では、まず、車線まで書かれた高精度の地図が必要になる。この地図を使って目的地までの走行プランを立てる。そして、自分の位置を確定し、周囲の状況を見て、レーンマークや標識なども見て、地図に沿って車を走らせる。自分がどこにいるか、周囲の状況がどうなっているのかなどを常にモニタして把握してフィードバックする必要がある。

自動運転では地図の確認、自分の位置の確認、周囲の状況の確認、そして運転と、各操作でチェックのループが入る

これらの動作を行って状況を確認して車を走らせる頭脳としてNVIDIAが開発しているハードウェアが「DRIVE PX2」で、Tegraを2個と未発表の(中程度の規模と思われる)Pascal GPUを2個搭載している。そして、DRIVE PX2の本当の頭脳ともいうべきソフトウェアはディープラーニングを使うDriveNetである。DriveNetは、次のスライドの右側に示すように、他の車の検出を行うKITTIベンチマークで識別が困難、あるいは中程度の難しさのケースではトップの認識性能を誇っている。

自動運転のハードはDrive PX2、真の頭脳はディープラーニングを使うDriveNetである

グリーンのLIDERが検出した周囲の状況に、表示の高精度地図を重ねた表示を背景に自動運転への取り組みについて説明するJen-Hsun Huang CEO

自動運転には車線まで書き込まれた高精度地図が不可欠で、他社に先駆けて実用化を目指すAudi、BMW、Daimler連合はHEREを買収して地図を手中に収めた。HERE以外で地図を手掛けている会社はオランダのtomtomと日本のZENRIN(ゼンリン)である。今後、これらの会社がどのようになって行くのかは興味深い。

高精度地図を作っているHERE、TomTomとZENRIN

最後にJen-Hsun Huang CEOは、Roboraceを紹介した。2016/17シーズンのFormula E(電気だけで走るレーシングカー)のレースの一環で、Roboraceは自動運転レーシングカー同士が戦う。出場の10チームはDRIVE PX2で制御される、まったく同じレーシングカーを使うことになっている。

Roboraceは自動運転の電気駆動のレーシングカーによるFormula Eレースの一環として、2016/17シーズンに開催される

一般の人の知らないところでディープラーニングの適用はどんどん進んでいて、突然、AlphaGoが人間のトップ棋士を破って人々が驚くような事例が出てきている。また、レントゲン、CT、MRIの画像の読影も、人間の医師では見逃してしまう僅かな異常をディープラーニングが見つけるということで、病院に読影サービスを提供する会社が出てきている。

近い将来は、Uberに乗ったら、運転手のいない自動運転車だったなどということも出てくるのではないであろうか。色々と考えさせられるJen-Hsun Huang CEOの基調講演であった。

しかし、NVIDIAの稼ぎ頭のPCグラフィックスの開発の手を抜いて、ディープラーニングに経営資源を集中するという事ができるのは、やはり、Jen-Hsun Huang氏が創業者のワンマン経営者だからである。いくつかのベンチャーの経営者を別とすると、このような経営者は日本には居らず、それが日本のエレクトロニクス産業の衰退の原因ではないかと思わずにはいられない。