携帯電話やスマートフォンを子供に持たせず見守る工夫

ottaを運営する山本文和社長は、「自分も一児の親として、事件や事故の報道を見るととても不安になった。しかし、子供に携帯電話やスマートフォンを持たせると、安否確認はできても、別のトラブルに巻き込まれる可能性が高まる。何か良い方法はないかと思っていたときにBeaconの仕組みを知り、これを持たせればと考えた。調べてみるとそうしたサービスはまだなかったので、子供のためにも自分で作ろうと決意した」と話す。

ottaの山本文和代表取締役社長。2016年は学校単位から街単位、都市単位へとユーザーの面積を広げ、ゆくゆくは全国に広げていきたいと夢を語る

今後の課題は「いかに見守り人を増やすか」。また、学校周辺だけでなく、「ゆくゆくは都市全体をカバーするような規模に広げていきたい」と述べる。学区外から電車通学する子供のいる家庭なら、カバーエリアの拡大ニーズも高そうだ。

今回、中国分小学校に集まった保護者からも、さっそく疑問や要望の声が上がり、質疑応答の時間はもちろん、otta.bの配布の後にも山本社長を囲んでさまざまな意見や質問が寄せられていた。

例えば「スマートフォンを使っていない人は利用できないのか」という質問があり、簡単にいうとイエス。

現状、iPhoneもしくはAndroidを搭載するスマートフォンかタブレットが必要であり、見守り人になるには端末がGPSを搭載していることも必須だ。まだまだ携帯電話(フィーチャーフォン)ユーザーの家庭も少なくないため、全家庭で義務的に導入することにはならないだろう。

端末の配布が終わっても、山本社長を囲んで保護者たちが熱心に質問や意見をぶつける

また、見守り人の端末バッテリーを心配する声も上がっていた。これについては、端末やすれ違う児童の数といった環境の差もあるが、多くても一日に数MB程度のデータ転送量にしかならないという。ottaの説明では、音楽ファイルを1曲ダウンロードする程度と表現していた。

基地局を設置しづらい通学路をどうカバーするか

実際にotta.bを受け取った保護者に話を聞いてみた。冒頭で紹介した関口さんは、「息子の帰りが遅くなった日に何をやっていたか聞くと、学校に居残っていたケースが多かった。でも、いつもより帰りが遅いからといちいち学校に電話するのも抵抗がある。ottaを使うことで、『子供はまだ学校にいる』と分かるだけでも安心だ」と期待する。

5年生の女の子を持つ中別府さんは、「待ち望んでいたサービス」という。見守りサービスはさまざまな形で増えてきているが、システムが複雑だったり、料金が高かったり、実効性に疑問を覚えたりと、帯に短したすきに長しと感じていたそう。

さらに中別府さんは「携帯電話を持たない子供との待ち合わせにも便利そうだ」と指摘する。「学校まで子供を迎えに行ったのに、子供と時間通りに落ち合えずに困惑する親御さんが意外に多くいる。少し遅れている程度で校内に押しかけるのも気が引けるし、そうかといって校門付近でぼんやり待っていて良いものかと、奥さま同士で電話やメールでやりとりすることもある。ottaがあれば、子供がまだ校内にいるのか、迎えが来るのを忘れて遊びに行ってしまったのかすぐに分かる」と。

このほか、「難しいと感じる操作はなさそうなので嬉しい」「端末が可愛い」「今日ここに保護者が来られなかった共働きの家庭にも薦めたい」「もう子供が小学校を卒業した家庭や子供のいない家庭の人にもぜひ協力してもらいたい」といった、好意的な感想が多かった。

小学校の正面にあるスーパーマーケット。小学生が寄り道する場所にはあまり見えないが、このように、人が通って電源を確保できる場所が基地局の設置候補

通学路には電源を確保しづらい場所も少なくない。バスやタクシーなどの移動体に基地局設置の協力を仰ぐ手段も検討中

住宅街に基地局を設置する場合、協力してくれる個人宅を見付ける必要があるのも課題

気になる点のひとつに、「通学路にコンビニなどの商店が少ない場所はどうカバーするのか」も聞かれた。運営側としては、バスやタクシー、宅配業者などへの協力を仰げないか検討するそうだ。人が持ち歩くスマートフォンに目を付けているように、基地局が必ずしも固定されていなくても、それなりに役立つところがこのサービスの利点といるだろう。

今回来場できなかった保護者にも希望があれば都度配布していくとのことで、山本社長は「otta.bユーザーや見守り人を増やしていく鍵は、学校や保護者と十分にコミュニケーションが取れるかどうか」と語る。4月の正式サービス開始を前に、実証試験参加者の期待にどこまで応えられるのか。無事にサービスを開始して運営を継続できるのか。運用次第では子供の見守りだけでなく、ペットや高齢者の見守りにも応用しやすいサービスであり、今後の動向に注目していきたい。