皆さま、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

……とか書いてる今はまだ12月29日なんですけどね。それはともかく。2015年はProcessが不調な年であり、主要なチップメーカーがそろって新製品を出せずに苦労した年でしたが、これは2016年も続くことになりそうです。

半導体製造における"鍵"を握ってるのが「Process」という状況に変わりはありません。そんな訳で2016年のPCテクノロジートレンドもまずProcessから話をしていこうと思います。

編集注:PCテクノロジートレンドといえば、「スタッフの方の写真」ということで今回はスタッフ「まめっち」さんの写真をお送りいただきました。記事の各所にご登場いただいております

Intel 14nmは落ち着きを見せるもまだまだ課題が

不調が続くIntelの14nm世代。Photo02~Photo04は2014年のInvestor Meetingにおける、同社の14nmプロセスの動向である。実際、建前としては2015年ではBroadwell-HもSkylakeもリリースされたので、確かに量産が始まっていること自体に違いはない。

Photo02~04:それぞれのスライドに関する説明は2015年の記事で行ったので今回は割愛

しかし、いま問題となっているのはYieldである。Photo05は2015年のInvestor Meetingにおける資料で、14nm世代のYieldがMatureになったというのだが、2015年末になってもまだ22nm世代のYieldに届かないことになっている。

Photo05:確かに落ち着いたことはまちがいないのだが、ちょっとYield低くないかい? というのが問題点

これを分かりやすくするため、Photo04とPhoto05を重ね合わせたのがPhoto06である。背景の色が濃い部分が2014年に示されたグラフ、薄い部分が2015年版となる。

Photo06:22nmのYieldのグラフがきっちり重なるようにした結果、14nm世代が微妙にぶれているが、それでも傾向が分かるかと思う

2014年末の予定では、2015年の早い時期(2~3月?)に22nm世代と同等のYieldまで持っていくはずだったのが、実際には2015年10月になってもまだ22nmと世代は隔たりがあることを示している。Intelとしては、2016年6月ごろには22nm世代と同程度にYieldを引き上げたいと予定しているようだが、正直なところこれもかなり怪しく、当分変わらないままになるのではないかと思われる。

Intel CPUの出荷動向を見てみると、低価格帯向けのPentium/Core i3は比較的スムーズであるし、デスクトップ向けのCore i5/i7もそれなりにモノが出ているのだが、そもそもSkylakeで一番需要が高いMobile向け高性能品の供給がまったく追いついていない。

より多くのEU(Execution Unit)を備えたGPUであるGT3やGT4を搭載した製品が不足しているのは、単純にプロセスの問題だけともいえず、やや不可解な状況ではあるのだが、いずれにせよハイパフォーマンスのMobileに注力したいIntelとしては何としてもこの問題を解決しなければいけない。

課題はありつつも14nm製品は今後も続々と登場

ただこの問題に注力するあまり、プロセス開発の方にも影響が出ている。まず14nmのHigh Speed Logic版であるが、2015年の早い時期に開発を断念する決断を下したらしい。要するに「できなかった」という話である。

22nm世代の場合、Photo07に示すようにゲートの幅と高さ、さらに特性(Photo08)を変えることでHigh Speed(P1270)とLow Power(P1271)を作り分けることに成功したが、14nmではそもそもプロセスを微細化しすぎた関係で、フィンのサイズなどをいろいろ調整するのが困難になっているようだ。何とか1種類だけ安定した寸法の構造を作ることに成功したが、そこからの展開が不可能になってしまったらしい。

Photo07:これはIEDM 2012での"A 22nm SoC Platform Technology Featuring 3-D Tri-Gate and High-k/Metal Gate, Optimized for Ultra Low Power, High Performance and High Density SoC Applications"という発表資料からの抜粋。SPとLPは一見同じ寸法に見えるが、NMOS/PMOSのリーク電流の値が異なっているのが分かる

Photo08:出典はPhoto07に同じ。SPとLPは異なるゲート長に最適化されている

いまところ14nm世代では、SoCプロセスを無理やり使ってXeonからAtomまで作って何とかしのぐという話になってしまっている。結局、High Speed版は10nm世代まで先送りということで、逆にいうと14nmの世代では動作周波数はこれ以上あがりそうにない。

しかし、いまだに問題を抱えつつも、14nmプロセスをあてにした製品は今後も数多く控えている。Intelでいえば2016年の半ばに"Broadwell-EP/EX"の投入を予定している。実はこのプロセス周りの問題に絡んで、一度はBroadwell-EP/EXをスキップする(理由はCPUのパートで説明)という議論もあったらしいが、結局のところ、Performance/Powerを重視するならBroadwellベースで構わないという議論に収束したらしい。

またHPC向けには"Knights Landing"ベースのXeon Phiもやはり14nmで製造する。Knights Landingは、すでにNERSC(National Energy Research Scientific Computing Center)との間で、2016年中に9300ノード分を納入する契約があるし、その後もいくつかの大規模なHPCシステムに納入が決まっているから、こちらの生産についてもスケジュールに余裕はない。

加えて、12月28日に買収が完了したAlteraのStratix 10の生産もある。これらの製品がどれも一発で動き、問題もなければすぐに手離れしそうだが、Broadwellの苦闘を見る限りその可能性は低そうだ。恐らく2016年半ば、下手すると2016年後半まで製造部門のエンジニアは14nmの微調整に張り付くことになるだろう。

10nmプロセスの行方

さて、2016年も14nmの調整に時間がかかってしまうと10nmへの移行にも大きな影響を及ぼす。Intelは14nmと10nmの開発を並行して行っているが、10nmの立ち上げはさらに困難になることが予想される。そもそも10nm世代の場合、単にトランジスタを微細化すれば済む問題ではなくなっている。

微細化しても性能が上がらないどころか逆に落ちるとか、リークがさらに増えるとか、Patterningがこれまで以上に困難となる(TSMCの10nm世代の場合、トランジスタ層はTriple Patterning、M1~M2の配線層はDouble Patterningが必須とされる)などいい材料が1つもない。

唯一メリットとしてあるのが実装密度を上げられることだが、実際にはこれもリーク電流の増加などと相まって、Dark Siliconの割合を増やすだけだという観測もある。そのため、新技術を導入してこうした諸問題について対応することになる。これまでのIntelでいえば、45nm世代のHKMG(High-K Metal Gate)や22nm世代のFinFETがその新技術であった。

10nm世代についてはIII-V族トランジスタと量子井戸を導入するのではないかと「観測されている」。なぜ「観測」なのかといえば、Intelは10nm世代に関して完全に秘密主義を貫いており、このところ何の発表もないからだ。

2013年のInvestor Meetingではこんな楽天的なスライド(Photo09,10)だったのに対し、2014年には自社の10nm世代に触れない(Photo11)ことになっており、2015年はついにこんな資料を出してお茶を濁すことになっている(Photo12)。要するに、対外的に「いつ10nmをリリースできるか」公式にはいえないほど難航している。

Photo09:2013年のInvestor MeetingにおけるWilliam Holt氏(EVP&GM, Technology and Manufactureing Gruoup)のスライドより。10nmはトランジスタあたりのコストを大きく下げられるとしている。ちなみに縦軸はLog Scaleなのに注意

Photo10:出典は同じく。この時点では2016年に10nmをリリースという楽天的なものだった

Photo11:出典は2014年のInvestor MeetingにおけるWilliam Holt氏のスライド。「公式情報ベース」ってそりゃそうなんだろうけど

Photo11:出典は2015年のInvestor MeetingにおけるWilliam Holt氏のスライド。この中で比較的実現可能性が高いのは、左上のGaNベースのトランジスタとか、左下のRRAM/STTMあたりのみである

一応、水面下では2017年に10nm製品のリリースを目指しているという話だが、14nm世代の場合は製品の最初のアナウンスが2013年のIDFで、製品が流れ始めたのが2015年の上半期(2014年中にごく少量だけ流れ始めたが、これはアリバイ作りの域を出ないもので、量産出荷とはいいがたい)ということを考えると、2016年前半中に10nmプロセスについて何らかのアナウンスがないと、2017年中の量産開始は難しいのではないかと思われる。

ちなみに先に挙げた「観測」の一例は、 David Kanter氏のこちらの記事である。氏のレポートは、これまでIntelがIEDMなどで発表した報告を基に、10nm世代のトランジスタ構造を推定したものなので、別にIntelがこれをCommitしたとかそういう話ではないのだが、こうした新技術を入れないと10nm世代で使い物になるトランジスタを構築するのは難しいという話は間違っていないと思う。

話を戻すと、2016年に関して言えば引き続きIntelには14nmプロセスしかない。なので、あとはいかに迅速にこれのYieldを改善して、幅広く製品を提供できる様になるか、だけがポイントとなっている。