今年で51回目の開催となる、音と映像と通信のプロフェッショナル展「Inter BEE 2015」。今年は千葉市・幕張メッセにて、11月18日~21日の3日間にわたり開催された。

本稿では、同イベントに出展したアビッド テクノロジー社ブースにて行われたAvidゲストセッション「映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』における「Pro Tools | S6」によるミキシング」の模様を中心にレポートをお届けしたいと思う。

2015年12月18日公開の最新映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のサウンドの秘密が聴ける貴重なトークセッションとあって、会場には多くの来場者が集まり盛り上がりを見せていた

「映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』におけるPro Tools | S6によるミキシング」と題されたゲストセッションでは、ハリウッドからの特別ゲストとして、同作品のサウンド・ミキシングを手がけたサウンドデザイナー/リレコーディングミキサーのウィル・ファイルズ氏が来日。ファイルズ氏は、世界で最も尊敬されているオーディオ・ポストプロダクション施設のひとつであるスカイウォーカーサウンド(カリフォルニア州)に在籍しており、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』をはじめ、『ミッションインポッシブル ゴーストプロトコル』、『ブレイブ』、『スター・トレック』など多数のハリウッドの超大作映画に携わり活躍している人物だ。

セッションの冒頭、まずはファイルズ氏がサウンドを手がけた最新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の予告編が上映された。今回のセッションでは、この予告編を題材に、同映画のサウンドに関するさまざまなテクニックやエピソードが披露された。

スター・ウォーズは長い歴史を持つ作品だけに、過去のアーカイブされた膨大な数の音楽や効果音などのサウンド素材を整理し、リレコーディングすることから同氏の作業はスタートしたとのこと。その作業はあたかも楽曲をリマスタリングするかのようであり、非常に楽しい作業でもあった、とファイルズ氏は語った。

実際にファイルズ氏が制作したPro Toolsセッションが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の予告編の映像と共に再生され、同氏のワークフローの一端を体感することができた

ファイルズ氏の手により磨き上げられた過去の各種素材に加え、新たなシーンなどに必要となる新規のサウンドをシームレスに融合し、今回の新作映画のサウンドは作り上げられている。また、現代のデバイス事情などを反映し、マルチチャンネル・サラウンドに対応したゴージャスな再生環境だけでなく、スマートフォンやノートブックパソコンのようなパーソナルな再生環境でもそのサウンドがしっかりと聞こえるよう、「Avid Pro Multiband Dynamics」や「iZotpe Ozone」などのAAXプラグインを活用し、ミックスをし直しているとも述べていた。

ガジェット好きで多忙なJ・J・エイブラムス監督にサウンドの確認やアドバイスを求める際などには、iPhoneなどのデバイスで作品を再生したりするといったエピソードも披露された

また、ファイルズ氏自身によるPro Toolsセッションの解説では、ピアノやストリング、ブラス、クワイアーなど、それぞれのトラックを個別に再生し、プラグインエフェクトをオンオフしながら、その効果を確認するなど非常に丁寧な説明がなされていた。

「この予告編では、クラシックなスター・ウォーズのテーマソングを分解・再構築するという試みも行われている」とも語り、結果的にジョン・ウィリアムズ作曲のテーマにさらなるインパクトを加えた壮大なスケール感を持つムービーサウンドが完成したとのこと。

「Pro Tools | S6」は、マルチポイント・タッチスクリーンやマルチカラー・ノブなど多様なビジュアル・フィードバックを備え、Pro Toolsとの高度な統合環境を提供するコントロール・サーフェス

予告編のサウンドは最新のコントロール・サーフェス「Pro Tools | S6」および「Pro Tools | HDX」によって、すべてのミキシングが行われているそうだ。「Pro Tools | S6」なら、Pro Tools | HDXのあらゆるパラメーターにすばやくアクセスが可能。 VCAマスターのスレーブを複数のストリップに展開するスピルや、スピードを変えられる波形スクロール、チャンネル・ストリップから直接クリップ編集できるなど、Pro Tools | S6」に搭載された多彩な機能について、ファイルズ氏も高く評価していたのが印象的であった。

「制作現場では、エディットとミックスを同時に行うことが多いが、Pro Tools | S6の柔軟性に富んだコントロール機能により、とても迅速に作業が行える」とファイルズ氏

続いて、ファイルズ氏は、予告編でのダイアログのミキシングについても触れ、本編とは若干異なり、予告編ならではのサウンドレベルにマッチした詳細なダイナミクス・コントロールが必要になると解説した。また、それを実現するツールとのひとつとして自然でクリアなサウンドがお気に入りというAAXプラグイン「Avid Channel Strip」を紹介。膨大なトラックすべてに同プラグインがインサートされているが、動作も軽快なためストレスなく使用できるとのこと。さらに、イコライザーやディエッサーなどのエフェクトを使って、ダイアログサウンドを効果的にトリートメントする具体的なテクニックなども披露された。

ハリソン・フォードの声を例として、AXXプラグイン「Pro Multiband Dynamics」使用し、迫力のあるサウンドであると同時に耳障りでない心地良いサウンドを作る具体的な手法も公開

最後にファイルズ氏は、「過去のスター・ウォーズ三部作を見返しインスピレーションを得たりもした。シンプルでありながら人々により訴えかけるサウンドの実現は、自身にとってチャレンジでもあったが、非常にエキサイティングな体験でもあった」と語った。そして、「一番のお気に入りは、作中に登場するロボットBB-8のサウンド。なぜなら、その音自体がキャラクターを表現しているからね!」と、同作品のサウンド制作について振り返った。

日本では、2015年12月18日より公開予定の映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』。ファンならずとも、ストーリーやビジュアル、そしてそのサウンドにますます期待の高まるゲストセッションとなった。