製品担当者が語ったSynergyがCortex-Mを選んだ理由

さて、ここまでSynergyについてご紹介してきたが、次にPeter Carbone氏(Photo36)に色々とお話を伺ったのでまとめてご紹介したいと思う。

Photo36:Peter Carbone氏。Renesas Electronics America(REA)にて、Vice President of the IoT Business Unitを務めておられ、Renesas Synergyの開発を主導してきた人物だ

まずSynergyがCortex-Mを選んだ理由について、「我々はそもそも既存のビジネスをSynergy Platformで置き換えるのではなく、既存のビジネスはそのまま発展させていくが、それとは別に新しいマーケットをSynergy Platformで開拓したかった」とした上で、「250億台のIoTマーケットに向けて必要となるものを0から定義し直した結果、RXやRZ、RLといった既存のMCUは新しいプラットフォーム向けの設計になってない事が問題になった。例えば周辺回路のIPはRXなどに使われているものがベースではあるが、同じものではなく、多くの変更を行った。なので、もしSynergyをRZやRX/RLで構築した場合、逆に既存のソフトウェアとの互換性が失われてしまう事になる。なので、既存のMCUコアを利用するのは適当とはいえなかった」と、「ビジネスの観点で言えば、この新しいマーケットはすでにARMが入っている分野である。ここはRZやRX、RLではこれまでリーチ出来なかったところだ。このマーケットの顧客はすでにARMアーキテクチャを利用しており、結果としてARMアーキテクチャを採用する必要があった」とした。

では逆にベアメタル(素のMCUコア)ではなくプラットフォームを提供したかについては、「確かに現時点での顧客の要求はベアメタルだ。ただそのままでは他社製品との差別化にはならないし、我々は別に他のベアメタルなARM MCUのベンダになりたいわけではない。実際我々のMCUは低消費電力や優れた周辺回路を提供していると思うし、実際ベアメタルで比較しても決して遜色は無いと思う。しかし、市場には非常に多くのベアメタルな製品を提供するベンダがあり、すべての会社が自社製品を省電力に優れ、高性能と主張する。だからこそ、我々はそれ以上の差別化としてプラットフォームを提唱したわけだ」と説明した。

そのプラットフォームはExpress LogicのThread Xを採用したが、その理由については「我々はSynergyに求められる要求事項を分析し、それを満たすRTOSがどれかを検討した。特に産業や医療、家庭などさまざまな業界で使われることが必要であり、またUSB、Network、Storage、Graphics、Communications、etc…と非常に広い範囲のミドルウェアも必要とされた。もちろんパフォーマンスの詳細な分析も行った。さまざまなRTOSについてこれらを非常に細かく分析し、最終的にThread Xを選んだ形となる」とした。ただその場合のコストだが、Synergy Platformを利用する限り開発者はThread Xのコストを個別に支払う必要が無い。これについて「Expless Logicとの契約の詳細は公開できないが、Thread XのコストをRenesasが肩代わりする事は、それほど問題とはならない。加えて言えば、我々はそこにValueを追加しており、なので開発者がSynergyの上でThread Xを利用する事で得られる価値は、普通にExpress Logicと契約してThread Xを使う場合よりも大きくなる。もちろん我々はThread Xのコストを開発者にそのまま上乗せしているわけではない。我々はLicense Feeを非常にシンプルにした。またTCOの低減も重要案問題である。Synergyを利用する際のテクニカルサポートのコストは0だ。なぜかというと、我々としては多くの会社にSynergyを使ってもらうための投資と考えているからだ。我々は小さな会社にこそ、Synergy+Thread Xの構成で迅速にIoTアプリケーションを構築して展開していって欲しいと望んでいる」とする。

面白いのはこのライセンスである。そもそもThread Xは必ずしも北米以外では広く使われているとは言いにくいが、これについては「実際のところ、多くの地域で異なったRTOSが一般的に利用されており、これには言語のサポートも含まれる。RenesasはThread Xに関してグローバルライセンスを取得している。だから、日本に展開するときには、日本語で語り、日本語のドキュメントを用いて、日本人のFAEによってサポートが行われる事になる」とした。またその他の国に関しても「今は日本語への翻訳が先行しているが、将来はその他の言語にも対応する。中国語への対応は、2016年末まで行われる予定だ」とした。面白いのは、この対応はExpress Logicではなく、Global SupportはGlobal Renesas Teamが対応するという形になることで、ことSynergyに関してはThread Xを含めてすべての対応がRenesasのOne Stopが実現されることになる。