計算機からデジタルカメラや腕時計、電子辞書や電子ピアノなどなど、きわめて幅広い分野で製品を展開するカシオ計算機。その中で、個人的にずっと気になっていたアイテムがある。2015年1月のCES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー。ラスベガスで行われる世界最大の家電見本市)で発表され、3月末に発売された「トラックフォーマー」(TRACKFORMER)だ。リリースには「幅広いシーンで使える新しいDJ機器」とあるが、どうも今ひとつ具体的な商品特性が把握できない。しかし、やはり気になる! 幸いなことに今回、ついに開発スタッフの方々にお話を伺える機会を得たので、そのレポートをお届けする。
直球質問! トラックフォーマーってどんな製品?
トラックフォーマーは、「XW-DJ1」と「XW-PD1」の計2機種をラインナップ。価格はXW-DJ1が3万円前後、XW-PD1が3万5,000円前後(2015年7月13日現在)。2機種ともベースデザインは似ているが、XW-DJ1にはターンテーブル、XW-PD1には何やらパッドが並んでいる。少なくとも、インタビュー本稿に入る前に、ここまでの予備知識は共有しておきたい。
続いて、以下の2本の動画をご覧いただくことを、ぜひともおすすめする。それぞれ2分ちょっとなので、時間は取らない。なお、モノが音楽関係のアイテムなので、当然ながら音が出るうえに、それが重要。静かなオフィスで見る方は、イヤホンかヘッドホンのご着用を。
CASIO XW-DJ1 - Demo - DJ Shota |
CASIO XW-PD1 - Demo - KΣITO |
では、この2機種がどんな製品かを何となくご理解いただいたところで、インタビューに入るとしよう。ご対応いただいたのは、カシオ計算機 楽器事業部 開発部 商品企画室の段城真氏と会見英哲氏、鈴木泰樹氏。
ズバリ「トラックフォーマー」とはどんな製品なのだろうか?
段城氏 「『デジタルダンスミュージックギア』という新しいジャンルの商品になります。近年流行のダンスミュージックやクラブミュージックを初心者にも気軽に楽しいんでほしい、そのために、カシオが鍵盤楽器で培ってきたデジタル技術を搭載した、今までになかったジャンルの電子楽器なんです」
「その演奏手法が、いわゆるDJスタイルというわけです。つまり、従来の楽器のように自分で楽器を練習して曲を演奏するのではなく、内蔵音源や、本体に接続したスマホやミュージックプレイヤーの音楽ソースを使って、DJのようにミックスしたり、エフェクトやフィルターをかけたり、スクラッチプレイをしてオリジナルのダンスミュージックとして演奏する。トラックフォーマーという名前は、好きな音楽トラックを自由自在にトランスフォーム(変形)させることができることから来ています」
なるほど、製品像はなんとなくつかめてきた。各機種の特徴は後ほどもう少し詳しくうかがうとして、どうしてまた、そんな新ジャンルの楽器を開発したのだろうか。その背景には、楽器演奏をたしなむ人々の2極化があると段城氏は語る。
段城氏 「電子鍵盤楽器の市場は、子供たちを中心とした教育分野と中高年の趣味需要が大きな割合を占めるようになってきています。つまり、若者の層が少いんですね。その大きな要因となっているのが、時代とともに音楽そのものが変化しているということです」
そういいながら、段城氏は2000年と2013年のヒットチャートの比較をスクリーンに投影した。2000年の音楽は、いわゆるポップスの割合が比較的多く、演奏スタイルもギター、ドラム、ピアノ、ベースなどで構成されることが多かった。ところが2013年になると、電子楽器を多用したEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)が大きな割合を占めていることがわかる。
段城氏 「これらの音楽はメロディやリズムがシンプルで、それをひたすらループしながら、音を重ねていく。つまり、ピアノやギターだと楽しみ難い音楽だと思うんです。しかし、若者の間で今一番受け入れられている音楽はこのEDMです」
あのビルボードもダンスエレクトリック部門を設立、トップDJは年に数十億円稼ぐともいわれる。日本でも『ULTRA JAPAN』という巨大なダンスミュージックフェスが毎年開かれるほどの人気ぶりだ。これは世界的な流れで、今や音楽市場のおよそ5割がEDMという調査もあるという。
段城氏 「特に電子技術を利用したDJ関連機器が増えてきていますが、それらはカシオが長年手がけてきた電子楽器と技術分野が近い。ここに着目したのが開発のきっかけです」
「カシオの発想と技術力で、EDM機器をイノベートする! 」トラックフォーマーは、そんなカシオらしい気概が生んだプロダクツなのだ。