カシオが30年間打ち込んできたデジタル技術が結実

これら商品で培われてきた技術とノウハウは、アウトドアカテゴリーが「PRO TREK」(プロトレック)に、健康・フィットネスカテゴリーが「PHYS」(フィズ)という時計ブランドに受け継がれている。

その一方で、発売当初こそ話題になったものの、後に残ることなく消え去ったものが少なくないのも事実だ。増田氏はいう。

増田氏「多機能デジタルに対して30年間、リソースを費やしてきましたが、肝心の業績は売り上げベースで700億円の壁をなかなか突破できなかった。ここで学んだのは、多機能であることの問題点でした。

まず、時計に本当に必要な機能がなかなか開発できなかったこと。時計がスタンドアローンゆえにボタンが増え、操作が複雑化したこと。そして、多機能がしばしばデザインに悪影響を及ぼしていたこと。もちろん、高く評価してくれる方々もいらっしゃいましたが、一般ユーザー層にはアクが強い商品にしか見えない。結果、いわゆるガジェット好きの層にしか、商品の魅力が伝わらなかったのです」

業績に「700億円の壁」が立ちふさがる。それはG-SHOCKブームを経ても変わらなかった

そして2004年、カシオの時計事業は「多機能デジタル」から「高機能アナログ」へと大きく舵を切る。高機能とは、「時計としての基本機能を高めていく」こと。電波時計、GPS、スマホ連携、そしてタフソーラー。ユーザーが何もすることなく、あるいは簡単な操作で、正確な時刻取得や充電が行える。時計にとってもっとも大切な精度は向上しつつ、使い方はシンプルに。そして、時計としての表現はアナログに回帰した。

増田氏「カシオのアナログは、デジタルでドライブするアナログです。電波やGPSを使った時刻取得方法の簡素化も、針を自在に動かすマルチモータードライブも、実はカシオが30年間打ち込んできたデジタル技術が結実したものです。これにより、スイスブランドとの差別化だけでなく、今までのクォーツ時計にできなかったことも実現できました。それは業績にも表れてきて、2014年度の時計事業の売り上げは、過去最高の1,530億に達しました」

これは、G-SHOCKが空前の大ブームとなった1997年度(1,500億円)を超える数字だ。