音楽産業や音楽ファンの敵にならないApple Music
3つのOSの説明が終わり、すでに開始から100分を超えていたが、今回は「One more thing...」が用意されていた。新しい音楽サービス「Apple Music」である。定額制音楽ストリーミングサービスであり、3000万曲以上のApple Musicカタログから自由に音楽をストリーミング再生できる。料金は9.99ドル/月。
Apple Musicを音楽ストリーミングサービスとして評価すると、14.99ドルで6人まで加入できるファミリープランはお得だが、先行するSpotifyを圧倒するような存在ではない。しかし、Apple MusicにはSpotifyにはない特長を備える。それはAppleが昨年買収したBeatsの創設者の1人Jimmy Iovine氏がApple Musicを紹介したことによく現れている。
Iovine氏は、米エンターテインメント産業に強い影響力を持つプロデューサーであり、起業家である。これまでアーティストとともに音楽作品を作り、利益を共有する側にいた人物だ。そのIovine氏が新たな音楽の提供手段の確立を目指し、Appleの一員としてレコード会社やアーティストと交渉する。Iovine氏なら、ただデジタル配信へのシフトを進めるのではなく、音楽の歴史や価値、アーティストの立場を踏まえたサービスを作ってくれると、音楽ファンも、音楽産業関係者も期待する。
音楽はエモーションに訴えるものであるという考えから、Apple Musicではおすすめ楽曲の提示をアルゴリズムのみに頼らず、音楽のエキスパート(達人)が担当するキュレーションを組み合わせて行う。また著名DJがプログラムを作成し、毎日24時間グローバル規模でオンエアするネットラジオ局「Beats 1」、アーティストとファンを結ぶソーシャルサービス「Connect」といったサービスを提供する。
これらは特に斬新な手法ではない。むしろ、昔からある音楽専門誌やラジオ局と同じような役割と言える。だが、音楽ファンが素晴らしい音楽と出会い、音楽を創るアーティストを知りたいという思いは昔も今も変わらない。そして、人々に感動を与える素晴らしいキュレーションやラジオプログラムを実現するのも、昔も今も容易なことではない。Apple Musicに関しては、音楽ダウンロードから定額制ストリーミングへの移行に注目が集まっているが、音楽の配信方法ではなく、音楽や音楽カルチャーの素晴らしさを伝えることの再定義――その実現をApple Musicは目指す。
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iTunes Matchに相当する機能を備えており、iTunesライブラリをスキャンし、CDから取り込んだ音楽やiTunes Storeから購入した音楽をMy Musicに登録、自分のコレクションとしてアクセスできる |
日本でのサービス提供については未発表だが、単なる定額制音楽ストリーミングサービスではなく、邦楽でも音楽と音楽カルチャーの歴史を発展させるサービスを実現してほしいと思う。