Pinterest

現在、Apple公式サイトのスペシャルコンテンツ『iPadで変わる』特集でも紹介されているビジュアルブックマークサービスPinterest。オンライン上のイメージをスクラップするように集めることができるサービスですが、それが一体どんなことに役立つのか。サービス提供側と利用者側の双方にお話をお聞きし、前編に続いて後編では二人のユーザーさんのお話をお届けします。


言葉で伝わらないイメージを共有する

北青山にあるヘアサロン「L'arte」のオーナー・松本良輔さんは、20年以上のAppleファン。店舗では予約・会計用として早くからMacを導入し、現在も数台のMacBookシリーズが活躍中。待合用のソファにはiPadが置かれています。松本さんはこれを使って、Pinterestで作ったへカタログをお客様に見てもらっています。

松本さん 「使い方がよく分からなくてずっと見ているだけだったのですが、ある時ヘアアーティスト関連の画像が多いことに気がついて、これは使えるんじゃないかと。かねてからヘアサロンの中でもお客様の需要が紙媒体よりデジタル画像に移り変わっていましたし、検索性もあって良いなと思ったんです」

ヘアサロン「L'arte」のオーナー・松本良輔さん

当初は松本さん個人のiPhoneを使っていましたが、数カ月前に店舗のアカウントを作りiPadを使って運用を始めました。カテゴリ分けがしやすいので冊子のヘアカタログよりも探しやすく、トレンドに応じてどんどん追加していくことが可能。言葉では伝えきれないカラーの染まり具合やパーマの仕上がりを伝えるために豊富な画像を用意でき、iPadと組み合わせれば、お客様と対話しながら見るのにも最適です。さらにスタッフにとっても意外な利点がありました。

松本さん 「僕らの世界は分業なので、技術的なもの以上に感覚的な"具合"というものを連携するスタッフ間で伝えなくてはなりません。こうした画像があると、その具合がすごく説明しやすい。パーマをするにも数字的な指示より仕上がりのイメージを伝えるほうが実現度が高いんです」

現在は、松本さん個人のアカウントにはトレンドになる前の要素を含んだエッジィなもの、店舗のアカウントにはすぐに活用できるものを長さやカラーごとに網羅するように集めています。利便性だけでなく、一般の人が目にする情報の変化を感じていたことも大きな理由です。

松本さん 「これくらいで自分もやっていけると思っていましたけど、今は想像以上にお客様の方が僕らですら知らない技術を動画や画像で見ているかもしれない。検索をして見たことがないスタイリングが出てくると、自分でできるかなと考えるんです。できなさそうならピンしておこうと。下手をしたら追い越されちゃう、という危機感もあって見ています」

サロンでもiPadが活躍しているとのことだ

これまでは知っている中から提案していたものが、Pinterestを見て知らないものを知り、知れば試してみる、というようにお客様に対するアプローチが明らかに変わったという松本さん。Pinterestをヘビーに使い始めてからほんの数カ月ですが、「たったこれだけの刺激なのに、自分が変わっていくと感じます」と実感を語ってくれました。

イメージから学び、創り、発信する

ヘアサロンと並行して、大学の「化粧文化論」やヘアメイク実習の講師、また美容師のトレーナーとしても活躍している松本さん。PinterestとiPadはデザイン系の学生が歴史を学んだりインスパイアを得るためのツールとしても可能性を感じていると言います。

松本さん 「例えば、1960年代の影響を考慮してファッションショーをするならどんなヘアメイクにするか提案してください、といった課題を出し、様々な素材やイメージをスクラップして世界観を作るという授業をやるんです。今までは実際に切り貼りでやっていたのですが、同じようなことがPinterestとiPadでできます」

Follow Ryosuke Matsumoto's board 60's : Period and After on Pinterest.

歴史に学び、それが時代ごとにどのように解釈されてきたのかを理解することが、デザイナーやヘアメイクアーティストのバックボーンとなります。多数のイメージを系統立てて整理していく作業そのものが学びにもつながります。一方で松本さんは、デジタルばかりでなく実際に紙や布を切り貼りしたり、手で書き込んだりする良さも大切にしています。

松本さん 「それぞれの良さを分かって両方使うと、お互いにインスパイアされるところがあるかもしれません。具体的な課題があると取り組みやすいと思います」

松本さんにとってPinterestは、参考になる画像を集めたりデジタルなヘアカタログという実用的な用途を超え、インスピレーションを得て仕事に生かしたり、後進の学びに活用するツールにもなっています。他力本願な気楽さもありながら、「プロにとっても思ったより影響力があった」ということに使ってみて気がついたと話す松本さん。これからはヘアサロンで実践したスタイリングの写真を集め、発信していくことにもつなげていきたいと考えているそうです。

Pinterestは「インプットの場所」

時岡碧さんは、幼い頃にデジタルカメラを買ってもらったことがきっかけで写真を撮り始め、モード誌でのファッションブロガーを経て、社会人になった現在も風景や人物を撮影し続けている、写真好きなブロガー。もともと文章を書くことが好きで、自分の考えていることを貯める場所としてブログを書いていましたが、文章だけでは表現しきれないことがあったり、言語に関わらず見にきてくれた全ての人にも伝えられる可能性を感じ、写真に比重を置くように。写真表現とオンラインを通じて人に共有するということは、時岡さんにとってひとつに繋がったものだと言います。

時岡さん 「オンラインがなければ写真もそれほど続かなかったと思うくらい、繋がっていますね。いいものが撮れると誰かと共有したいという欲求もあったんだと思います」

写真好きなブログライター・時岡碧さん

Pinterestを使い始めたのは4年ほど前で、最初に魅力に感じたのは「自分の好きなものを貯められること」。ダイアリーを使ったスクラップブックを続けていましたが、それがiPadを使うことで、ハサミやノリを利用せず手軽にできることが画期的だったと言います。また、貯めるだけでなく"開けている"ことも時岡さんにとって魅力に感じるポイント。

時岡さん 「スクラップブックは自分だけで楽しむものですが、Pinterestは私がスクラップしたものを人に見てもらったり、逆に他のユーザーさんがどんな形で何を集めているのか、覗き見できるのも好きです」

時岡さんは先日の大型連休に買ったばかりのiPad miniを愛用中。どんなカバンにも入り、「頑張らなくても持てる」手帳感覚のサイズがほど良く、ゴールドカラーもお気に入りです。電車の中で立っていても、ベッドで寝転んでいても使えて、使ううちにますます手放せないものになっている様子。Pinterestも「長押しでサッとピンができるのがすごく好き」と、iPad miniから使うことが増えているそうです。

時岡さん 「ブログは主にパソコンから更新していますけど、やっぱり座らないと出来ないので、画像はiPadからアップロードするなど、だんだんこちらの比重が大きくなっています」

ダイアリーを使ったスクラップブックを作っていたが、それがiPadとPinterestの組み合わせに変わったという

Instagramもよく使いますが「Pinterestがインプットの場所だとしたら、Instagramはアウトプットの場所」と、自然に使い分けているそう。さすが、デジタルネイティブはサービスの本質がよく分かっています。

俯瞰して見えてくる、自分のやりたいこと

時岡さんのピンボードを見せてもらうと、様々な視点で集められた人物の写真が並んでいます。髪型やファッション、色をキーワードにしたり、こういう写真を撮ってみたいと思う作品を構図の参考として集めたり。ファッション誌のエディターやスタイリストをフォローして、次のトレンドにアンテナを巡らせるのも楽みのひとつ。

Follow Midori Tokioka's board Midori's Vision Board on Pinterest.

また、Pinterest主催のワークショップで作成した、今年やりたいことを集めた「ビジョンボード」は、視覚的に思い返すことができるので「箇条書きより楽しい」と言います。学生時代から続けている劇団のビジュアルデザインにおいては、参考資料となるイメージを集めるツールにもなっています。

時岡さん 「例えば、50年代のニューヨークが舞台の作品なら『50s NY fashion』などで検索して関連するビジュアルを集め、衣装のスタイリングやポスター作成の参考にしています」

集める目的は様々ですが、こうして数を集めて俯瞰してみると全体的な雰囲気として見えてくるイメージがあります。視覚的に整理していくことで、ボンヤリしていた考えが具体的になってくるもの。時岡さんは「自分がこういうテイストが好きなんだという発見にもなることが面白い」と言います。

時岡さん 「写真を撮ることに限らず、世界観を"表現"して"共有"することを大事にしていきたい。介在するものが異なるだけで、それは仕事でもブログをでも演劇でも同じかな、と思っています。あまり統一感なくやっているように思われることもありますが、実際に最近はヴィンテージショップの空間プロデュースを任せていただくこともあったり、少しずつ自分の中でひとつに結びつきはじめている感じはあります」

写真が好きだけど写真だけにこだわるわけではない、という時岡さん。iPadの上にたくさんのテーマのピンボードを並べるように、表現・記録・人との関わりなど、様々な場で行う活動が大きなひとつのイメージにつながっています。