6月1日、Apple Store, Omotesandoにて、Apple Watchのフィットネス技術の開発をリードしたJay Blahnik氏をゲストに迎えたトークイベントが行われた。今、一番ホットな製品ということに加え、Appleの要人が公の場に登場するという、とても珍しいイベントでもあり、当日は多くの聴衆が詰め掛けた。

Apple Watchのフィットネス技術担当Jay Blahnik氏(左)とITジャーナリストの林信行氏

Blahnik氏は、Apple Watchのフィットネス技術の開発を担当した人物である。Apple Watchのフィットネスのビデオでも、アクティビティやワークアウトのアプリケーションの解説者として登場している。Apple Watchの開発チーム合流以前は、NikeのFuelBandの開発に携わっていた。フィットネス業界での功績は多大なもので、企業講演やコンサルタント業のために世界中を飛び回っていた時期もあったという。

イベントのホストを務めたのはITジャーナリストの林信行氏。ヘルス、フィットネス、テクノロジーなどなど、Apple Watchの魅力をBlahnik氏と探っていった。

Blahnik氏は、Apple Watchというパーソナルなデバイスは、今までよりアクティブで、よりインスピレーションを与えてくれ、よりインタラクティブな体験を得られるものだと語り、さらに、今まで会うことができなかったような「友達」と出会えるようになり、長年Appleを支持してくれた林氏のような友人とは、より強い絆を感じられるようになったと続けた。

これに対し、林氏は、今より5から10Kgぐらい体重を落とせていたらもう少し説得力のある話ができたのに、とまずは軽いジョークで応酬したのち、2020年の東京五輪・パラリンピックに向かって、健康に関する意識も高まっている中、テクノロジーを使って様々な取り組みが行われていること、Apple Storeでも多くの健康にフォーカスした製品が販売されていることを指摘した。

フィットネスの分野にテクノロジーが導入されることについて、それらが互いにとても深い関わりを持つようになるとある種、脅威に感じられる人もいるかもしれないが、自身はその反対に--特に若い世代は--関心が高まるのであろうとBlahnik氏は主張する。林氏は、若い世代にはソーシャルメディアが重要な役割を果たしていると考えており、フィットネスもソーシャルメディアを通じ、競争相手を探して楽しんでいると意見し、高齢化が進んでいる日本に於いては、年配の世代もテクノロジーを進んで取り入れることができるのなら、医療の面でも貢献できるだろうと強調した。

Blahnik氏は、世界中でApple Watchの利用法についてヒアリングをしているが、どこに行っても人それぞれ使い方が全然違うと話す。自分自身の使い方が確立できると、テクノロジーへの依存度が低くなるとも伝えた。あわせて、精神衛生面でもメリットがあるという考えも示した。また、「アクティビティ」の達成度が気になるようになり、意識して活動量を増やすようになったという。Appleの会議でも「スタンド」に促され、一斉に参加者が立ち上がるという光景が見られるようになったとのことである。このことについては新しい文化が生まれてきていると感じているようだ。

一方で、アクティブであり過ぎると反対に健康に良くないということもリサーチの結果分かってきたらしい。アスリートタイプの人はよく動く反面、座ってる時間が長いことが多く、「スタンド」を意識させることが存外に難しいと感じられるそうだ。

Apple Watchの「アクティビティ」アプリ

「アクティビティ」のリングのデザインについては、定量的な計測を超える何かが必要があって、このような形に落ち着いたと明かしてくれた。一日のカロリーの消費を表示する「ムーブ」と、早歩き以上の運動を行った時間を示す「エクササイズ」、そして「スタンド」の3つを用意したのは、運動するという動機を維持するためだと説明してくれた。

将来のテクノロジー、フィットネス、医療はどうなると考えているのかというBlahnik氏の質問に、林氏は、今後は様々なセンサーが開発され、医療専門家がテクノロジーを積極的に活用するようになるのではないかと答え、あわせて「薬局3.0」という、iPhoneを使って無医村でも医療が受けられる取り組みを紹介した。この返答に対し、Blahnik氏は時代とともに健康管理を自分で行えるようになってきたと見解を述べ、従来は専門家の介入が必要だったことも自己管理が実現するのではないかという考えを示した。

林氏は、Apple Watchの開発を目的に設営されたという"Secret Fitness Lab"に関する質問を投げたのだが、Blahnik氏は「秘密です」とかわし、聴衆の笑いを誘った。のち、Appleが秘密にしていた施設を世界に披露するというのは、Appleらしからぬというか、今までなかったことだとコメントし、その秘密施設について語り始めた。

iOSデバイスは恐らく世界中でもっとも人気のある製品だと自負しているが、Apple Watchは今までのデバイスとは少し趣が異なり、新しい世界への挑戦であったとBlahnik氏は言う。また、新規に参入するジャンルで成功を収めるには、好奇心と、知らないことに関して謙虚になることが必要だと力説した。実際、Apple Watchの開発が始まった当時、自分達が人間の体について知らないことがとても多いことに驚いたそうだ。新しい分野に入っていくには情熱も必要で、既に他人の手が届いている方法論では学べることがないと語気を強める。

開発チームは約2年、その秘密施設で仕事にあたっていたのだが、その中には看護師やエクササイズの専門家らとともに、ボランティアのApple社員の姿があったそうだ。ただ、非常に多くのテストや評価を行っていたため、ボランティアのメンバーはそこでApple Watchの開発が進められていることには気づかなかったようである。秘密施設では、砂漠や寒冷地を再現した環境でも行われたとのことであるが、様々なテストを通じて学んだことは「人体は極めて複雑である」とBlahnik氏は話す。取り組みべき課題は未だ山積しているという認識のようだ。

イベントの終盤にはQ&Aのコーナーも設けられた。Apple WatchのWatch OSがアップデートされたことで、テニスなどのアクティビティが正しくエクササイズとして認識されなくなってしまったのはどうしてかという質問が飛び出たが、これに対し、Blahnik氏は、テニスのような楽しくできるスポーツでも、正しくエクササイズと認識するように改善したいと回答した。

イベントの締めくくりは参加者との記念撮影

最後はイベント参加者と一緒に記念撮影が行われた。この日はApple Watchを着けた人も多く、装着したほうの腕を高く上げたポーズをキメる姿も印象的であった。