初期需要を満たせず最大で夏までの予約待ちが出たといわれるApple Watchの生産問題において、ある日本企業が急に大きなスポットライトが当たることとなった。米Wall Street Journalの4月29日(米国時間)の報道によれば、Apple Watchで触感フィードバックを実現するモーター装置「Taptic Engine」を製造する2つサプライヤのうち、中国企業のAAC Technologiesの部品に問題が発見されて全量廃棄を余儀なくされたことで、現在残りの1社である日本電産(Nidec)にApple Watch製造のすべてがかかっている状態になっているという。
同件を報じたWSJでは、急遽日本電産を紹介する記事を公開して注目企業のプロフィールを追いかけている。同社は現在代表取締役会長兼社長の永守重信氏と3人のエンジニアによって1973年に京都を拠点に設立された企業で、部品メーカーという性格ゆえに一般での認知度は低めだが、モーター装置の製造開発では最大手の一角だ。同社は企業プロフィールの中で「世界初」「世界最小」といったキーワードで他社に勝るモーター技術の先進性をアピールしており、今回ある意味でAppleの社運がかかっているApple Watchのサプライヤの1社として選ばれたと考えられる。
Appleが部品の安定供給のために、同じ部品で2社以上のサプライヤを選定する傾向があるのは比較的有名だが、それでもプロセッサのように供給元が1社に限定されていたり、あるいはディスプレイの歩留まりや品質の問題からiPadやMacBookの製造が滞ったりと、必ずしも順風満帆なわけではない。今回はこれが「Taptic Engine」と呼ばれるモーター部品で発生したわけだ。
「Taptic Engine」とはAppleの造語で、「Haptic Feedback (触感フィードバック)」を生み出す「リニアアクチュエータ(直線方向に駆動する振動部品)」のことだ。本来、タッチスクリーンに触っても触感は得られないため、実際に特定の領域をタッチして正しい反応が得られたかどうかはわからない。そこで振動によるフィードバック(反応)を適時返すことで、一種の触感を生み出すのがTaptic Engineの役割となる。この機械式フィードバックの仕組みは新型MacBookの「Force Touch」機能に対応したタッチパッドで採用されたほか、今回のApple Watchにおいても主要なメカニズムとして大々的にアピールされている。実際の部品形状はApple Watchを分解したiFixitのサイト(Step.14)で確認できる。
WSJによれば、Apple Watchの大量生産が開始された2月以降、品質テストにおいてAAC TechnologiesのTaptic Engine部品の一部に問題が見つかり、結果としてAppleが同社製部品を組み込んだApple Watchの一部廃棄を決定する事態になったという。現時点でリコール等が行われていないことからも、こうした問題のある部品を組み込んだ製品は事前に出荷がストップされているとみられ、それが前述の日本電産に極度に依存する状況を作り出しているのだと考えられている。関係者の話によれば、AppleはすでにTaptic Engine製造をすべて日本電産に移管しているが、一方で同社が増産体制を確保するには時間がかかることから、当面はApple Watch全体の供給がタイトになるとみられる。