なぜ「クリエイター向け」なのか

VAIOが、初めて公開するオリジナル製品を、クリエイター向けの「クリエイティブタブレットPC」にした理由はいくつかある。

Adobe MAX 2014の公式サイト

たとえば、VAIOの特徴を生かす技術がクリエイター向けに発揮できることや、VAIOが目指す付加価値戦略として、クリエイター向け製品がひとつのポジションに位置づけられることなどが挙げられる。そして見逃せないのは、VAIOにとって、クリエイター分野はソニー時代から重要な領域であったという点だ。

もともとこの分野はMacが強いが、Windows環境でソフトウェアを利用するクリエイターが増加するなかで、Windows搭載PCとして最も高い評価を得ていたのが、VAIOであった。

それはクリエイター向けに行われたインターネット調査で「どのPCを支持するか」といった質問に対して、Macに次いで、VAIOが2位にあがっていたことからも証明される。確かに、Macとの差は大きかったが、3位以下との差も大きく、VAIOに対する評価がWindows陣営のなかではずば抜けていた、という結果となった。

実際、PhotoShopの伝道師といわれるラッセル・ブラウン氏はVAIOユーザーでもあり、PhotoShopのアーティストとして著名なレイス・バード氏もVAIOのユーザー。こうしたクリエイターがVAIOを利用していることで、それに影響されてVAIOを利用しているクリエイターも少なくない。そして、日本においても多くの漫画家やイラストレーターがVAIOを利用している。とくに、VAIO Duo 13の評価は極めて高いという。

Adobeのラッセル・ブラウン氏は、Adobe MAX 2014でも登壇する

「2012年秋に、ビジネスコンシューマをターゲットに開発したVAIO Duo 11において意外だったのが、クリエイターの評価が高かった点。その後に出荷したVAIO Duo 13では、さらにクリエイターからの評価が高まった」と、伊藤ダイレクターは、ソニー時代の経験を振り返る。

ちなみに、ソニー時代のVAIO OWNER MADEでは、購入時にアンチウイルスソフトを選択する人を1とした場合、イラスト・マンガ制作ソフトであるCLIP STUDIO PAINT PROを選択する人がその約5倍にも達していたほか、イラストコミュニケーションサービスであるpixivに広告を掲載した際には、ソニーストアへのアクセス数が6倍にも拡大したという実績もあったという。こうした点からも、VAIOとクリエイターとの結びつきが強いことがわかる。それだけ、VAIOにとって、クリエイター分野は需要な市場領域なのだ。

言い換えれば、新生VAIOが、引き続きこの市場において、「一点突破の製品」を作ることは必然であったともいえるだろう。

「MacBook Pro 13よりも速く、軽く、薄く、MacBook Pro 15を超える性能を実現する」のが、この新たなタブレットが目指すところだ。

こうしてみると、日本でしか事業展開を行わないVAIOが、米ロサンゼルスで、クリエイティブタブレットPCを初公開した理由もうなずける。クリエイティブタブレットPCは、あくまでも試作品であり、これを公開することで、クリエイターの意見を集約。製品化に反映するという狙いがあるからだ。全世界からクリエイターが集まるAdobe MAX 2014は、その点でも最適の場所であるというわけだ。

正確な数値は不明だが、かなり薄く作られているようだ

VAIOの伊藤ダイレクターは、「これは、米国での発売を前提とした取り組みではなく、あくまでも試作機を見せて、クリエイターの声を聞くという点に的を絞ったもの」と説明する。

事前に発表前の試作品を、クリエイター向けイベントで公開するというのはソニー時代にはなかったものであり、VAIOならではの新たなモノづくりへの挑戦ともいえる。

実は、ソニー時代から、クリエイター向けの製品づくりは中長期のひとつの方向性として指向していたものだという。それを新生VAIOになって一気に加速。VAIO株式会社ならではの小回りを利かせて製品化につなげていく考えだ。すでに国内外数十人のクリエイターから話を聞き、それらの声も今回の試作機には反映しているという。

かつては、「バイオR」などビデオ編集にフォーカスしたクリエイター向け製品も投入していたが、近年そうした取り組みがなくなっていたともいえる。クリエイティブタブレットPCは、まさに「クリエイターによるクリエイターのためのタブレットPC」(VAIO・伊藤ダイレクター)であるのは間違いない。