日立製作所と電気通信大学、サイバー創研は9月4日、ID情報を秘匿したまま認証を行うことで、プライバシーの侵害リスクを低減するUHF帯パッシブ型RFIDタグチップを試作したと発表した。

今回の開発は、情報通信研究機構(NICT)の委託研究「軽量暗号プロトコルの省リソースデバイスに対する実装効率向上の研究開発」により実施されたもので、電気通信大学がRFIDタグ全体の設計、日立がRFIDタグに適した暗号技術の選定と実装、サイバー創研がRFIDタグの電力評価を担当した。

近年、RFIDタグやセンサで収集された人や物の状態に関する情報(フィジカル情報)と、クラウドコンピュータ上に蓄積されるさまざまな情報(サイバー情報)を組み合わせて快適なサービスを提供するサイバーフィジカルシステムが注目されている。例えば、スマートシティの分野では、RFIDタグを活用して人の位置や物の状態を把握し、日常生活に必要な電力量を調整するなど、利用者が所有するIDカードと組み合わせることで、効率的なサービスの提供が可能になる。しかしその一方で、RFIDタグはカードリーダなどで容易に読み取ることができるため、そのID情報を追跡されると個人のプライバシーを侵害されるリスクがある。

このようなリスクを軽減するために、ID情報の付け替えを行う仮名化技術や秘匿化技術の研究開発が進められており、NICTと電気通信大学の研究グループでは、ハッシュチェーンを用いてRFIDタグが発信するID値を毎回異なる値にすることで、ID値の追跡を困難にするID秘匿認証(OMHSO)プロトコルを開発してきた。同方式は高い安全性を持つ認証方式だが、RFIDタグチップ内で複雑な処理を実行するため、小型化および消費電力を抑える効率的な実装方法の確立が課題だった。

そこで今回、この課題を解決するために、アナログ信号処理回路とデジタル信号処理回路を1つの回路に集積することで、ID情報を秘匿したまま認証を行うために必要なデジタル信号を処理する部分を小型化して回路規模を約10kGEとした他、消費電力を約140µWと効率化を図り、新電波法の特定小電力無線局に対応したUHF帯(920MHz帯)での動作確認に成功した。これにより、ID値が固定である従来のRFIDタグを用いたシステムと比べて、よりプライバシー性の高いシステムの実現が期待される。今後、同技術を活用し、フィジカル情報の安全な収集技術を確立して安心できるサイバーフィジカルシステムの構築に貢献していくとしている。

試作に成功したRFIDタグチップ